2019年3月21日木曜日

ANAカードの広告に掲載されているロケットは何が間違っているのか?, What is wrong the rocket in the advertisement of ANA card?

ANAカードの広告に掲載されているロケットは何が間違っているのか?,
What is wrong the rocket in the advertisement of ANA card?





日本の鹿児島(種子島)で、固体ロケットモーターを搭載しソユーズが打ち上げられる世界線-

ANAカードの広告で、「その日まで貯めた15000マイルで鹿児島へ」と書かれた、ロケット打ち上げの光景が載っていた。これを見ると、宇宙ロケット関して多少知っているならば、クスリと笑ってしまう。この広告の何がおかしいかについて、解説してみよう。



      



1. ANAカードのロケット広告は、何がネタとして面白いのか?


主に、ネタとして面白いのは以下の点である。

  1. 日本の鹿児島(種子島)で、日本でロシア(旧ソ連)のロケット:ソユーズロケットが打上げられている。
  2. ソユーズは、液体燃料ロケットなのに、白煙を出している。
  3. 以上から推測される、広告会社?のやっつけ仕事感。


2. 種子島から打ち上げられる、有人宇宙船型ソユーズロケット(旧ソ連製)


「その日貯めた15000マイルで鹿児島へ」と謳いつつ、ANAカードの広告に写っているのは、ソ連で開発されて現在ロシアでも使用されている、「ソユーズロケット」である。

ソユーズロケットは、世界初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)であるR-7を基に改良を重ねて今日まで長きに渡り運用されている宇宙ロケットである。

鹿児島に現在存在する宇宙ロケット射場として、文部省 宇宙科学研究所(ISAS)の源流を持つ内之浦宇宙空間観測所と、科学技術庁 宇宙開発事業団(NASDA)の源流を持つ種子島宇宙センターがある。

両方とも現在では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)として統合されて運用されている。広告の背景には、山が無いことから、種子島宇宙センターの可能性が高い。

しかし、種子島宇宙センターでは、ソユーズロケットは打ち上げてない。旧ソ連以外では、欧州宇宙機関(ESA)と協力して、フランス領ギアナの射場から打ち上げている例ぐらいである。

更に言えば、このソユーズロケットは、ソユーズFGの有人宇宙船搭載仕様に見える。それは、先端に搭載されている脱出用固体ロケットから把握することが出来、有人ミッション特有の物だ。国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ、無人の補給船仕様(プログレス)のソユーズFGでは、脱出用固体ロケットは付属しない。


つまり、どうやらこの広告では、有人宇宙船を搭載したロシア(旧ソ連)のロケットが、鹿児島(種子島)で運用されている世界設定の様だ。



ANAカードの広告に掲載されている白煙を引くソユーズFGロケット
先端に脱出用固体ロケットが確認できる



ISSに物資を運ぶ無人の補給船(プログレス)型(参考)
ソユーズFGであっても脱出用固体ロケットを先端に搭載しない



3. 固体燃料ロケットモータ仕様のソユーズロケット


ソユーズロケットは、液体燃料ロケットエンジンを搭載した、液体燃料ロケットである。
下記に、ソユーズロケット打上げ動画の一例を示すが、上昇するロケットからは大量の白煙等は確認できない事が分かるだろう。

液体燃料ロケットエンジンの噴射ガスは、一般的に見える事は無い。(添加剤等あれば、別かもしれないが)つまり、ノズルから白煙のガスが尾を引くこともない。ソユーズは、液体酸素/ケロシンの推進剤を使用するため、噴射炎は見えているが、しかし液体酸素/液体水素を推進剤としたロケットエンジン等では、その炎すら、ほぼ透明で見る事は難しいといった具合である。




しかしながら、ANAカードの広告に掲載されているソユーズロケットは、得体のしれない白煙のガスを噴射している。大量の白煙のガスを噴射するロケットは、固体燃料ロケットに見られる特徴である。


実際のソユーズロケットの打ち上げ。離床後、炎のみで噴射煙は見えない。



白煙を引く、ソユーズロケット(ANAカード広告より、謎の世界線)


つまり、どうやらこの広告では、ソユーズロケットが、鹿児島(種子島)で運用されているみたいだが、そのソユーズロケットは、固体燃料ロケットモータ仕様という世界設定の様だ。


なお、メインステージとブースター両方とも固体燃料ロケットモータか、どちらかが該当するかは不明である。



4. 何故、固体燃料ロケットは白煙を引くのか?


現代の固体燃料ロケットでは、酸化剤の過塩素酸アンモニウム粉末(AP)、硬化するバインダー兼燃料として、末端水酸基ポリブタジエン(HTPB)を用いたコンポジット推進剤が広く利用されている。特に宇宙ロケット用のコンポジット推進剤には、性能(比推力等)を稼ぐために、燃料としてアルミニウム粉末(Al)が添加されている。

このアルミが酸化剤と結びついて燃焼した燃焼ガスがノズルから排出されると、大気中で白煙となって現れる。これが、現代の固体燃料式宇宙ロケットが、白煙を引く理由である。

なお、白煙の成分となる「アルミニウム」をグレインに添加せず、硬化剤となるバインダーのみで成型したコンポジット推進剤は、白煙を引くことは無い。例えば、戦闘機に搭載される空対空ミサイルでは、撃ったミサイルが相手側に極力発見されることのない、「低視認性」が優先される。それには、ロケットの推進性能が上がっても、白煙を引くアルミ添加は論外であり、下に示す写真の様に希煙化を図られている。これはアルミを含まない、アルミレスのコンポジット推進剤を使用している事を意味する。




H-2Aロケットの打ち上げの様子 SRB-Aのノズルから引く白煙が青空に映える
固体燃料ロケットブースターのSRB-Aの白煙が尾を引いている

SRB-Aは、コンポジット推進薬 BP-207Jを使用しており
割合は、HTPB:14%, AP:68%, Al:18%



F-16戦闘機から発射されるAIM-9X サイドワインダー空対空ミサイル
ノズルから引く白煙は見えない 推進剤にアルミが含まれてない事が分かる


5. 結論、何故この様な広告になったのか?


以下、筆者が推測する成り行き。

  1. 「鹿児島にロケットを見に行く」って、航空会社のカードの広告として生えるんじゃないですかね!(名提案)
  2. でもH-2Aロケット使ったら、三菱重工やJAXAに叱られるんじゃないですか?では、ソ連ならどうでしょう。崩壊した国だから著作権や肖像権消滅してるんじゃないですか!?(名提案)
  3. H-2Aロケットの発射(SRB-Aの白煙)画像に、ソユーズロケットを無理やり合成(やっつけ感)

というような、展開が行われたんではないでしょうか・・・(推測)


なお、下記に示すJAXAデジタルアーカイブでは、高解像度の写真が、商用利用にも供されています。
是非、活用してみましょう。(利用可能範囲 : 報道・教育・商業目的使用可能)

http://jda.jaxa.jp/index.php



References
[1] http://www.ausairpower.net/TE-Sidewinder-94.html
[2] JAXAデジタルアーカイブ, http://jda.jaxa.jp/index.php
[3] https://www.htxt.co.za/2018/11/02/heres-what-caused-that-russian-soyuz-rocket-malfunction-in-october/

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