2019年8月12日月曜日

SpaceX Falcon9 ファルコン9 ロケット システム設計 (第3回目) ファルコンヘビー, Falcon9 Rocket System Design(3) and Falcon Heavy

SpaceX Falcon9 ファルコン9 ロケット システム設計 (第3回目) ファルコンヘビー,
Falcon9 Rocket System Design(3) and Falcon Heavy





Falcon9 ロケットは、SpaceXが開発した大型の軌道投入用ロケットである。
この記事では、Falcon9のシステム設計の概要について、

SpaceX Falcon9 ファルコン9 ロケット システム設計 (第1回目), Falcon9 Rocket System Design(1)
SpaceX Falcon9 ファルコン9 ロケット システム設計 (第2回目), Falcon9 Rocket System Design(2)

に引き続き解説する。「高信頼性」を軸に、合理的に設計した汎用大型ロケットがFalcon9ロケットである。今回は、Falcon Heavy等についても触れる。



【関連記事】
SpaceX Falcon1 ファルコン1 ロケット システム設計 (第1回目), Falcon1 Rocket System Design(1)
SpaceX Falcon1 ファルコン1 ロケット システム設計 (第2回目), Falcon1 Rocket System Design(2)



      




1. Falcon Heavy



Falcon Heavyの打ち上げ(2018年2月6日)


Falcon9の増強版である、Falcon Heavyは、2段式のブースタ付き大型ロケットである。ロケット構成としては、コアブースターとほぼ同等の2本のブースターを両脇に抱えている構成となっている。FHWは、信頼と実績のあるFalcon9の設計に基づき開発・製造された。

Falcon Heavyは、打ち上げ時に約2313トン(510万lbf)以上の推力を発生し、2019年現在世界で最も強力な打ち上げロケットである。歴史上、実用化された米国最大のロケットは、アポロを月面に送ったサターンVロケットであるが、サターンVの推力が3465トンであることから、推力規模は7割~6割程度である。

両脇のブースター込みで、3つのFalcon9 第1段目を束ねた設計であり、中心のコアロケットの第1段目ロケットエンジンは、機能が強化されている。第2段目以降については、Falcon9と同じものを利用している。

機体の規模や状態が異なれば、空力的な負荷が多少異なるにも関わらず、フェアリング等も同じである。これにより、Falcon Heavyは、最大限Falcon9の資産を活用できるように互換性を有した設計がなされている。この共通性により、製造や運用インフラの変更を最小限に抑えている。

2018年2月6日、ケネディー宇宙センターから最初のFalcon Heavyが打ち上げられた。
SpaceXは第1段目は、2つのサイドブースターがそれに該当するとみなしている。(仮想的な3段式ロケット、コアロケットが2段式(地上から点火するが)とみなす)各コアに、それぞれ9個のMerlin1Dロケットエンジンが搭載されている。



Falcon Heavyのエンジン配列(下から見上げた図)


サイドブースター、コアブースター合わせて合計27個搭載された、Merlin1D ロケットエンジンは、それぞれ約86.2トン(19万lbf)の推力を発生し、合計約2313トン(510万lbf)の推力を発生する。2つのサイドブースターは、中心のコアブースターにベースエンジンマウントとLOXタンクの前端の2か所で接続されている。

第1段目の各ブースタに9個のエンジンを搭載しているFalcon Heavyは、他の大型打ち上げロケットシステムと異なり、冗長性を備えている。ロケット上昇中、各エンジンは個別に監視され、異常が発生した場合、必要な場合には、最小噴射成功基準が残りのロケットエンジンで達成可能という条件において、エンジンをシャットダウンする。(異常なエンジンを停止させ、長く燃やせばミッションを実現可能と計算された場合において実施)このエンジン停止能力により、信頼性を持っており、これを実現するために第1段目の冗長性を確保している。

Falcon9の第1回目でも説明したが、Falcon Heavyでもエンジン停止能力を備えたEELV (EnvoIved Expendable Launch Vehicle) クラスのシステムを提供している。



Falcon Heavyの打ち上げと帰還概要図





2. Falcon9 / Falcon Heavyの投入可能軌道と射場

Falcon9とFalcon Heavyを利用することで、中規模及び大型の発射能力の全てをSpaceXは顧客に提供可能となっている。ケープカナペラル空軍基地、ケネディ宇宙センター、Vandenberg空軍基地において、Falcon打ち上げ施設を運営している。

低軌道(LEO)、静止軌道(GSO)、深宇宙の惑星探査まで、幅広い広範囲の傾斜、高度に対応している。将来的には、テキサス州南部で開発中の商業軌道発射施設からも飛行を予定している。下記に代表的な打ち上げ軌道を示す。射場により対応可能な範囲が異なるため、上記の射場を確保している。今後、射場が追加されるに従い、対応出来るバリエーションが増える。


◆低軌道(LEO)
 傾斜角範囲:28.5~51.6°
 対応機種:Falcon9 / Falcon Heavy
 射場:米国東側射場


◆極LEO、太陽同期軌道(SSO)
 傾斜角範囲:66~145°
 対応機種:Falcon9
 射場:Vandenberg空軍基地


◆静止トランスファー軌道(GTO)
 傾斜角範囲:上限28.5°まで
 対応機種:Falcon9 / Falcon Heavy
 射場:東側射場


◆静止軌道(GSO)
 傾斜角範囲:上限28.5°まで
 対応機種:Falcon Heavy
 射場:東側射場


◆地球脱出軌道
 傾斜角範囲:N/A
 対応機種:Falcon9 / Falcon Heavy
 射場:東側射場

 
Falcon9 / Falcon Heavyは、軌道への2回噴射投入、または直接投入を提供することが可能である。2回噴射投入はロケット能力を最適化するが、直接投入はミッション期間を短縮して、2段目エンジンの燃焼は1回のみで済む。

51.6°以下の傾斜のLEOミッションは、東側射場からの打ち上げになる。それ以上高い傾斜への投入は、Vandenberg空軍基地を使用することとなる。28.5°以下の傾斜角では、東側射場から発射可能であるが、この条件は打ち上げ能力低下を引き起こす。

様々な静止軌道投入やその他の高い軌道への投入が可能である。GTOにおいては、近地点高度185kmを基準としている。より高く近地点高度を設定した場合は、ロケット打ち上げ能力の低下を招く可能性があるからである。現在全てのGTOミッションは、東側射場から打ち上げている。

直接静止軌道投入の打ち上げは、Falcon Heavyにて、ケネディー宇宙センターから打ち上げ可能である。衛星は直接円軌道に投入される、あるいは正しい軌道位置に段階的に遷移することができるGSO下に投入可能である。

地球脱出軌道への打ち上げも可能であり、高い脱出エネルギー速度を確保するため、顧客が用意したキックステージを利用することが可能である。




3. Falcon9 / Falcon Heavyの衛星分離姿勢と精度

SpaceXは、標準サービスとして、3軸姿勢制御、スピン安定分離のサービスを提供している。慣性分離のために第2段とペイロードを必要なlocal vertical/local horizontal (LVLH)姿勢に向けることが出来、姿勢変化率を最小化可能である。

スピン安定分離では、F9は第2段とペイロードを必要なlocal vertical/local horizontal (LVLH)姿勢に向けて、顧客から指定されたスピンをロケットのX軸に対して与えることができる。ペイロードの質量特性に依存するが、最大30°/sまで調整が可能である。これらは全て標準サービスとして付属している。




4. 複数の衛星・ペイロード投入

Falcon9 / Falcon Heavyは、単一ミッションにおいて、複数の衛星を分離することが出来る。第2段目は再点火可能であり、各衛星を異なる軌道に展開する柔軟性を備えている。

マルチペイロードシステム、デュアルペイロードアタッチメントフィッティング、ミッションユニークアダプター等、幅広い分離システムに対応している。非標準サービスではあるが、サードパーティーシステムを使用できるように、それらのアダプター及びディスペンサーを開発や提供を追加料金で支援可能である。

また、衛星と非干渉の条件下おいて、SpaceXは2次ペイロードを投資する権利を持っている。これには、様々な種類のコンポーネントが含まれており、SpaceXの技術開発を後押ししている。




5. 衛星・ペイロードの環境

Falcon9 / Falcon Heavyは、全段液体推進、単一の第2段目ステージ分離、推力がスロットリング可能なロケットエンジン、窒素ガス式分離システムを使用することで、可能な限り衛星・ペイロード環境を良くするように設計されている。負荷をかけない方式を追及している。

第1段目、第2段目のロケットエンジンは、ピントル型インジェクターを搭載した可変推力エンジンなので、推力を容易にスロットリングすることができる。(第1段目は着陸可能な規模でスロットリング可能)そのため、ロケットとペイロードのの加速限界を維持するために、スロットリング可能である。これにより、きめ細かい加速度対応が可能となる。

Falcon9 / Falcon Heavyは、単に再利用出来るだけではない。衛星やISS等に運ぶ人員に対してかかる負荷(加速度)のきめ細かい制御を行う事が出来るのだ。これは、ロケットエンジンが共通の技術で製造されているため、第1段目、第2段目を問わない。

温度、湿度、清純度環境においては、SpXは、ISOクラス7(クラス10000)のクリーンルームを保有している。打ち上げ前に清浄化された空気は、環境温度として常に供給空気の露点以上に維持して供給されている。窒素パージも非標準サービスだが利用可能である。ペイロード取り付け治具(PAF)とフェアリング表面は、洗浄されることで、レベルとしてA/5とA/2の間で維持される。残留レベルの微粒子は、300~500μm程度であり、IEST-STD-CC1246Dを基準とした環境を用意出来る。





6. Falcon9 / Falcon Heavyの打ち上げウインドウ

Falcon9 / Falcon Heavyは、年内における任意の日、1日中任意の時間に打ち上げることが可能である。しかしながら、環境の制限の制約と準備状況には左右される。

打ち上げウインドウ時間は、各ミッション毎に特別に設定される。4時間を超えるようなものや、1時間未満の打ち上げウインドウは、SpaceXが提供する標準サービスではなく、別途追加料金が必要である。

顧客は、Falcon9やFalcon Heavyの第1段目がリカバリーして帰ってくるという他にはない仕様のために、打ち上げウインドウ内の打ち上げ機会を最大化可能である。これは、1段目の不確定な海上への落下がなく(ブースターは陸上戻って来て着陸、また海上でも回収船の上にピンポイントで着陸可能)、仮に海上へ落下させるにしても、どこの地点に落下させるか任意に設定できることも関係しているだろう。




H-2A 37号機の制限水域例

通常、宇宙ロケットはミッション終了後、軌道に乗らないものは自由落下するため、この様に広範囲に制限水域を設けた水路通報を出すのが通例である。落下地点は任意とならない。しかしながら、ピンポイントでフライバックするなら、この様な広大な制限水域は必要ない。



カウントダウンは、1時間前から開始が標準的である。ただし顧客に応じて、6時間前からカウントダウン延長もあり得る。カウントダウンの早い段階においてLOX、RP-1充填及び加圧負荷を実行し、推進系のチェックを実施する。

サポートはT-6分で取り外される。カウントダウンは全て自動で実施される。油圧クランプにて地上にロケット拘束されているが、推進系のチェックをHold on padオペレーションによって行うため、発射前に全出力が出た段階で最終チェックを行う。ノミナル値を確認すればT-0秒で油圧クランプが解放される。ノミナル値ではない場合、安全にエンジンはシャットダウンされる。



      



References
[1] Falcon9 Launch Vehicle Payload User’s Guide Rev1
      https://www.spaceflightnow.com/falcon9/001/f9guide.pdf
[2] FALCON USER’S GUIDE JANUARY 2019
      https://www.spacex.com/sites/spacex/files/falcon_users_guide.pdf
[3] H-2Aロケット37号機 水路通報資料

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