グルシュコ「行けないよ、液体酸素を使った大型エンジンではね。燃焼が不安定になることぐらい学生でも分かるだろ!」
イサエフ「アンチノックパーティション」
Rocketdyne「バッフルプレート」
イーロンマスク「ピントルインジェクタは振動燃焼を起こさない!」
グルシュコ「ファッ!!?」
TRWやSpaceXのロケットエンジンに搭載されている、ピントル型インジェクターは、振動燃焼を発生させない性質を持っている。TRWが開発し、SpaceXが特許切れで使用しているピントル型インジェクターが、長年ロケットエンジン開発において、技術者を悩ませてきた不具合である振動燃焼を発生させない理由について説明する前に、その概要をざっくりと説明する。
振動燃焼とは、燃焼室内の圧力変化や圧力振動を伴う不安定燃焼のことを指す。一般的に、ロケットエンジン内で発生する振動燃焼は、局所的な圧力変化、推進剤供給系統の作動不全等が発生トリガーとなり、燃焼室内部空間の音響的な固有振動モードと一致する事で、共鳴、増幅され異常な圧力振動が持続する現象である。
振動燃焼が発生すると、ロケット機体への振動負荷、推力振動の発生、燃焼ガスから燃焼壁に対して急激に熱伝達が増大する事によるエンジンの破壊等、様々な悪影響を及ぼす。このため、長年に渡りロケット燃焼室内の振動燃焼に関する研究が行われてきた。しかしながら、完全な理解には至っておらず、事象発生の際には、その都度手当がなされている。
振動燃焼は、燃焼ガスの音響振動がガス生成速度および位置に影響を及ぼし、両者が互いに増幅等することによって、圧力振動として現れる。振動燃焼のほとんどは、燃焼室内の特定の音響振動モードとなっている。
従って、ロケットエンジンの燃焼室における振動燃焼の種類には、縦方向モード(Longitudinal Mode)、半径方向モード(Radial Mode)、周方向モード(Tangential Mode)の3要素が存在し、それぞれが単体、あるいは組み合わさって発現する。音響的な固有振動モードと同じく、n次振動モード(n=整数)が存在する。
縦方向モードは、エンジンの機軸方向における内部気体の圧力振動、半径方向モードは、半径直線方向の圧力振動である。周方向モードについては、円筒形のエンジン断面に対して、周方向の振動となる。この中で、一番破壊的な作用を及ぼす可能性が高いのは、高周波で現れる周方向モードと半径方向モードであり、相互作用として現れる場合もある。縦方向モード及び半径方向モードには、定在波のみが存在するが、周方向モードには、回転波及び定在波が存在する。
一般的な振動燃焼における半径方向モードと周方向モードの混合パターン
NACAで示された半径方向モードと周方向の混合パターン例
合わせて横振動モード(Transverse modes)としている
円筒断面の音圧分布(参考)
薄肉円筒の周方向振動モード(参考)
例えば、ロケットエンジンは、片側にスロートを持った、一種の気柱管と見なすことが出来るが、縦方向モードでは、気柱の音響振動と似ており、エンジン機軸方向を気柱管と見なすと、その長さと燃焼ガスの音速の関係から、大よその固有振動数を求められる。
一般的に、ロケットエンジンの燃焼室内部は円筒形であり、燃焼室直径よりも燃焼室長さの方が大きい。従って、周波数が低い=長さが大きいパラメータに起因すると考えれば、気柱の音響振動の様に振る舞い、縦方向モードによるものだと理解出来る。
高周波数振動では、より周波数が高い振動燃焼=長さが小さいパラメータに起因すると考えると、半径方向及び周方向モードが原因となることが分かるだろう。
References
[1] 管状火炎バーナにおける半径方向・周方向モード共鳴振動燃焼, 下栗他, 広島大学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcombsj/59/187/59_41/_article/-char/ja/
[2] 管壁振動と管内音波の連成波動について, 村上他, 大阪大学他
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsj1973/17/8/17_8_484/_pdf
[3] A summary of preliminary investigations into the characteristics of combustion screech in ducted burners, Lewis Laboratory Staff, naca-report-1384, 1958
http://naca.central.cranfield.ac.uk/report.php?NID=7207
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