2020年5月7日木曜日

自衛隊の防護マスク・ガスマスクの歴史, History of JSDF gas masks

自衛隊の防護マスク・ガスマスクの歴史, History of JSDF(Japan Self-Defense Forces) Gas Masks





COVID-19騒動、コロナショックで、ガスマスクをした軍や警察をTVのニュースで見かけるかと思いきや、全く見かけないですね。CBRN対応フィルターは高いからね。サージカルマスクやN95で十分だね、仕方ないね。今回は、自衛隊が装備化・採用してきた防護マスク(防毒マスク・ガスマスク)について解説します。


      



1.防護マスク1型(52式防護マスク1型)





製造会社:三光科学工業株式会社
装備化年:1952年
吸 収 缶 :分離型大型吸収缶
原  型:日本帝国海軍 97式1号2型 分離型被甲等 旧日本軍防毒面?


1950年代に装備化された、自衛隊(保安隊)初の防護マスク。吸収缶は背負うタイプで、ホースを通じてた、分離式の吸収缶を備える。色はOD色であり、自衛隊で装備化される防護マスクは、2020年現在までOD色で統一されている。


製造会社は、三光科学工業株式会社であり、「隔離式A型マスク」(国家検定合格第267号・サンコー式G103型)として、民生用としても販売され、主に農業の農薬散布用等として使用されていた。



隔離式A型マスク(国家検定合格第267号・サンコー式G103型)


防護マスク1型の形状及び吸収缶を分離する形体は、日本帝国海軍の97式1号2型の分離型被甲に酷似している。1952年保安隊発足時の装備品であり、旧日本軍の防毒マスクの流れを組む装備品であった可能性は高い。



日本帝国海軍97式1号2型 分離型被甲


2.防護マスク2型




製造会社:三光科学工業株式会社
装備化年:1960年代?
吸 収 缶 :60mm口径 M11コンバットキャニスター規格
原  型:米軍 M9 ガスマスク

防護マスク2型は、米軍が装備化していたM9ガスマスクをライセンスコピー・改良したものである。外見からは、全てライセンスした訳ではなく、M9ガスマスクを参考にした、日本の独自仕様である。この流れは、防護マスク3型でも同様である。外見からM9と異なる部分として、灰色からOD色に変更されていること、排気バルブ・音声伝達部、吸収缶等が挙げられる。特に、排気バルブ・音声伝達部は、防護マスク1型の写真と比較すれば分かるが、共通部品を使用している。製造会社は同じく三光化学工業であり、部品の入手性・コスト製からこの様に改良したものと考えられる。



防護マスク2型の元となった、米軍 M9A1 ガスマスク


吸収缶は、現在標準の40mm径 NATOフィルターよりも大きな口径である、60mm径のM11コンバットキャニスター規格の物を使用。これは、第2次世界大戦末期から引き続く、当時の西側諸国の標準的なNBCフィルターであった。(C3 カナディアンガスマスク等も同様)

M9 ガスマスクは、その前に採用されたM8 Snout ガスマスクと違い、吸収缶は口元に対して直線的ではなく、左側に付属している。これにより、ガスマスクを被ったまま、自動小銃、拳銃を構える(右利き限定)動作が容易となった。


3.防護マスク3型



       


製造会社:興研
装備化年:1970年代?
吸 収 缶 :M17用フィルター 独自規格
原  型:米軍 M17 ガスマスク

防護マスク3型は、米軍が装備化していたM17ガスマスクをライセンスコピー・改良したものである。外見からは、全てライセンスした訳ではなく、M17ガスマスクを参考にした、日本の独自仕様である。この流れは、防護マスク2型と同様である。外見からM17と異なる部分として、灰色からOD色に変更されていること、排気バルブ・音声伝達部、吸収缶等が挙げられる。

原型となったM17ガスマスクは、1959年に米軍で装備化され、ベトナム戦争、湾岸戦争で使用された。米海軍・米空軍は、1985年にMCU-2/Pガスマスクに置き換え、米陸軍は1990年代半ばにM40ガスマスクに置き換えている。

M17ガスマスクをライセンスコピーした国は多く、防護マスク3型以外にも、ブルガリアのPDE-1、ポーランドのMp-4、チェコのM10M (OM10)が挙げられる。




米軍のM17ガスマスク


M17A1以降は、ガスマスクを被ったままでも水筒から飲み物が飲める、ドリンクチューブが搭載されたが、防護マスク3型は、M17を原型としており、ドリンクチューブは搭載されていない。

吸収缶は、ガスマスク内部に装着する、M17の独自仕様である。両サイドに装着されるため、取り込む空気流量が大きくなっており、息苦しさの改善につながっていると見られる。



M17ガスマスク用の独自仕様フィルター(吸収缶)



4.防護マスク4型(85式防護マスク4型)





製造会社:興研
装備化年:1985年
吸 収 缶 :40mm口径 NATOフィルター規格
原  型:なし


防護マスク4型は、オウム真理教による地下鉄サリン事件において、サリン除染作業等に実戦使用されたことで有名である。これまで世界でも様々なガスマスクが製造されてきたが、実際の化学兵器対処に実戦使用されたマスクは非常に稀である。





地下鉄サリン事件における防護マスク4型を装備した自衛隊員


防護マスク4型は、防護マスク2型、3型とは異なり、日本独自に開発された防護マスクである。外見形状はガスマスクとしてオーソドックス設計であり、直線型の吸気缶設置配置を持つ。世界の潮流から似たものを探すと、ドイツ軍のM2000に近い設計思想があると見られる。

排気バルブ・音声伝達部が大きく取られており、西側諸国において標準的となりつつあった、40mm口径 NATOフィルター規格と同等品が搭載された。これは、西ドイツのM65ガスマスク(1965年採用)等で使用されていたものと互換性を持つ。

ここまで、1952年~1985年にかけての33年間、技術の発展に伴うとは言え、1型(分離型大型吸収缶)、2型(60mm口径 M11コンバットキャニスター規格)、3型(M17用フィルター 独自規格)、4型(40mm口径 NATOフィルター規格)と、4種類の防護マスクが連続して異なる吸収缶・フィルターを採用しているのは、特筆すべきであり、それぞれに別のものを使用しているため、お互いに吸収缶の融通が効かないという状況であった。

(ここ30年程は、全世界的に40mm口径 NATOフィルター規格で統一されているが、新しい吸収缶・フィルターの規格を持ったものとして、イギリスのGSRガスマスク、米国のM50ガスマスクが登場しており、今後も規格が変わる可能性は高い)



興研によって製造された、40mm口径 NATO規格の吸収缶



なお防護マスク4型は、自衛隊の他、警察等にも納入されており、そちらは色がOD色ではなく黒色の色違いとなっている。4型(B)以降も同様と見られる。




警察等に納入された防護マスク4型、黒色仕様となっている



自衛隊仕様(左)と他官公庁仕様(右)の比較



4.防護マスク4型(B)(00式防護マスク4型(B))







製造会社:興研
装備化年:2000年
吸 収 缶 :40mm口径 NATOフィルター規格
原  型:防護マスク4型

防護マスク4型(B)は、防護マスク4型の改良版である。写真の質感から、音声伝達部を金属部品から、プラスチック部品に変更、視野を確保するレンズ部が上下に伸び、視界がより確保できる仕様となっている。ドリンクチューブを通じて、マスクを被ったままで水筒から水分を飲む事が出来るようになった。また、防護マスクを中心から真っ二つにコンパクトに折りたたんで収納様に改良がなされている。



ドリンクチューブを水筒に接続し、重力落下で水分を補給する


当時、米国ではM40ガスマスク、イギリスでは、S10やFM12ガスマスクが登場しており、これらは、兵士をCBRN(化学(chemical)生物(biological)放射性物質(radiological)核(nuclear))の脅威からの避難させる用途のみならず、催涙ガス等を用いた屋内戦闘においても、ガスマスクの役割を広げていこうという設計思想が見られるが、防護マスク4型(B)については、防護マスク4型の改良の域を出ず、引き続き屋内戦闘に対応した設計ではないように見える。

なお興研は、民生仕様として色は青色だが、防護マスク4型(B)と形状が似た「防毒マスク サカヰ式O-22型」という商品を売り出している。

防護マスク4型(B)の民生仕様である、興研 防毒マスク サカヰ式O-22型



警察等に納入された防護マスク4型(B)(黒色仕様)



5.呼吸追随ブロワ付防護マスク





製造会社:興研
装備化年:研究中(2000年代~)
吸 収 缶 :40mm口径 NATOフィルター規格
原  型:防護マスク4型(B)、民生用防塵マスク・防毒マスク

自衛隊が研究中のガスマスク。呼吸に追随してブロワが回り、息を吸い込む時に吸気のアシスト機能が付いた防護マスクである。イギリスのCBRNガスマスクでは、追加機能として、付属ブロワが開発されているが、背負う程大きい物である。このタイプはコンパクト軽量であり、使用者の呼吸負担を軽減する。

民生用途として興研は、自衛隊正式採用に先駆けて、呼吸追随ブロワ防護マスク(防毒マスク・防塵マスク)を市場に投入しており、民生分野でのノウハウが投入されているとみられる。なお、重松製作所についても、呼吸追随ブロワを搭載した防護マスクを制作している。

防護マスク4型(B)にブロワを付属したものに加えて、航空機・車両搭乗員用の防護マスクとして、広い視野を持った単眼式ゴーグルの図の様なものも考えられている。これは、民生用として視界を出来るだけ確保する下記の様なマスクから派生したものと考えられる。防護マスク4型(B)に引き続き、これらの防護マスクの設計は何れも対人戦闘の最適化は考慮されていない。



   

興研の民生市場への投入製品例1(一体型コンパクト版)
興研 電動ファン付き呼吸用保護具 サカヰ式 BL-711H-03



 

興研の民生市場への投入製品例2(分離型版)
興研 電動ファン付き呼吸用保護具 サカヰ式 BL-711H-03



4.18式防護マスク







製造会社:興研
装備化年:2018年
吸 収 缶 :?
原  型:AVON社 M50(米軍)、Scott社 GSR(英軍)


18式個人用防護装備として、2018年より調達が開始された自衛隊の最新型ガスマスク。マスクの設計は、そのデザインより、英国AVON社のM50や、Scott社のGSRといった最新鋭ガスマスクの影響を大きく受けているものと見られる。

分割式の眼ガラスから、一眼式となり視界が良好となった。両サイドに吸収缶を装備する方式なので、吸収缶を2つ装備可能であり、長時間の行動を支援すると共に、対人戦闘にも対応する。2018年以前に研究され、民生でも取り入れられている電動アシスト機能が付与されているかどうかは不明。排気及び伝声器部が大型化されており、マスクを被ったままの会話がしやすい様に改良されている可能性が高い。

吸収缶についても従来のNATO40mm規格とは異なる吸収缶が用いられている様である。その根拠は、外気側の吸収缶孔直径が大きく、内側についてもNAT40mm規格の様な形状には写真からは見えない点にある。GSRの様に、ガス中で取り外しが可能な様に設計されている可能性がある。



      




References


[1] 防毒マスク, http://degesch.jp/Products/gm/index.htm
[2] M9 Field Protective Mask,
      https://gasmaskandrespirator.fandom.com/wiki/M9_Field_Protective_Mask
[3] 防毒マスク1型, https://twitter.com/yamasannsou/status/708293491512586240
[4] 防護マスク2型, https://www.amazon.co.jp/dp/B07KVJ6GLW
[5] Aucfan.com, https://aucfan.com/
[6] 日本の対化学兵器用防毒面・装具など,
      http://www.xn--u9j370humdba539qcybpym.jp/part1/archives/542
[7] https://aucfree.com/items/f299421473#
[8] https://twitter.com/yhashi6894229/status/711512514077429760
[9] https://aucview.aucfan.com/yahoo/f190542706/
[10] “自衛隊御用達”の「00式防護マスク」とは,
        http://blog.sina.com.cn/s/blog_7a7d60690102wcjf.html
[11] 陸上自衛隊 第1師団/頭号師団,
        https://fr-fr.facebook.com/gsdf1stdivision/posts/1799605533700211/
[12] Strike and Tactical magazine,
       http://www.sat-mag.net/blog/2019/11/2019-1.html
[13] https://www.facebook.com/jsdfgcccnbc/posts/1335062356681860/
[14] 個人用防護装備(防護衣)の軽量化による生理的負担の軽減と CBRN 防護性能の向上
       https://ssl.bsk-z.or.jp/kenkyucenter/pdf/toyobo20191220.pdf
[15] https://jm2040.blogspot.com/2019/04/30-type18-mask.html
[16] https://twitter.com/jsdf_gcc_cnbc/status/1237853068319813637
[17] https://www.avon-rubber.com/our-businesses/avon-protection/product-range/