Falcon9 Rocket System Design(2)
Falcon9 ロケットは、SpaceXが開発した大型の軌道投入用ロケットである。
この記事では、Falcon9のシステム設計の概要について、
SpaceX Falcon9 ファルコン9 ロケット システム設計 (第1回目), Falcon9 Rocket System Design(1)
に引き続き解説する。「高信頼性」を軸に、合理的に設計した汎用大型ロケットがFalcon9ロケットである。
【関連記事】
SpaceX Falcon1 ファルコン1 ロケット システム設計 (第1回目), Falcon1 Rocket System Design(1)
SpaceX Falcon1 ファルコン1 ロケット システム設計 (第2回目), Falcon1 Rocket System Design(2)
1. Falcon9のアビオニクス
Falcon9の誘導制御、ナビゲーション、制御システム(GNC)では、フォールトトレントアーキテクチャーを採用しており、最新の民生コンピュータ技術とネットワーキング技術を使用して、Falcon9の性能と信頼性を向上させている。フォールトトレランスは、アビオニクスボックス内の区画分離または特定のコンポーネントを3重系統にして使用している。これは、Falcon9が、人員をISSに運搬するという目的に基づいて設計されているからであり、信頼性を高く作っている。
アビオニクスとして、フライトコンピュータ、GPS受信機、INS、機体制御コントローラ(推進、バルブ、加圧、分離及びペイロードインターフェイス制御)、ネットワークバックボーン等があるが、これらはSpaceXが独自に設計している。
安全にロケットを追跡するために、Sバンド送信機、Cバンドトランスポンダーを搭載している。Sバンド送信機は、第2段ステージ分離後に、第1段目と第2段目の両方からのテレメトリーと映像を地上に送信するために使用する。
電気的インターフェイスの複雑さを最小限に抑えるために、ロケットの第1段目、第2段目の両方で、複数の冗長化されたリチウムイオン電池を搭載している。つまり、これは限られたラインのみからの電源供給ではなく、バッテリーを介した電源系統をロケット内部に、分散して複数保有している。このことから、Falcon9の電源系統のバックアップは、複数あるものと考えられる。
ロケット機体には、故障時に被害を最小限にするための、飛行中断システムが装備されている。これは、レンジミッションフライトコントロールオフィサーによって直接指示される以外では、早すぎるステージ分離等、ロケットの誤動作等でミッション条件を逸脱した場合、自立的にフライトを中止する。この様に、高度に自動化されている。
2. Falcon9のロケット各段のアーキテクチャーと設計
Falcon9は、2段式ロケットである。これは分離による失敗可能性を最小限に抑えるために、この構成が採用された。点火不良や機械部分の故障等の分離失敗を避けるため、第3段、第4段は追加されていない。
Falcon Heavyについても、Falcon9と同様の構成を採用しているが、両サイドに2つのブースターが追加されている。これについては、仮想的な第1段ロケット、第1.5段ロケットと見なすことも出来る。
しかしながら、ソ連・ロシアのR7ロケットやソユーズロケットと同様に、地上での点火の確認が行えるため、打ちあがった後での点火失敗による失敗は排除出来る。Falcon9とFalcon Heavyは、加えて第1回目に書いた様に、Hold on padオペレーションを実行することが出来るため、これらの追加があっても、ロケットエンジンの健全性は地上で確認できる。このため、この状態であっても、追加されるのは第2段目の分離及び点火リスクのみである。
Falcon9の第2段の開放・分離システムは、「窒素ガス圧式押し出し式装置」を使用しており、比較的長いストロークによって低衝撃かつ信頼性の高い確実なリリースと分離が可能となる。
また、Falcon Heavyも窒素ガス圧式装置によってブースターを分離する機構である。これは、爆発ボルトを使ってSRBを分離する日本のH-2A等とは対照的である。
H-2Aの分離機構(H15にSRB分離に失敗したH-2A 6号機の報告書より抜粋)
Falconシリーズが採用した、窒素ガス圧式分離装置は、従来の火工品ペースの分離システムでは不可能であった、「実際に使用するフライトハードウェアへの事前の機能試験」を実施する事が可能となった。
これは。火工品ベースの分離システムは、一度使用すると火薬を燃焼させて作動させるため、再利用不可能だが、窒素ガス式の分離システムでは、ガス圧を再度かける事によって繰り返し試験が可能だからである。
第1回目に、ロケットエンジンの健全性を確麗して発射台からリリースする事に触れたが、液体燃料ロケットと固体燃料ロケットの様な対比がここにもある。各Falconロケットシリーズの打ち上げについて、SpaceXは、コンポーネントからシステムレペルまでの一連の徹底的な事前試験を地上で事前に実施している。これが、高い信頼性と成功率の裏付けとなっている。
窒素ガス式の分離システムや液体ロケットエンジンに代表される様に、打上げ前に事前試験が可能な構成品をシステムとして積極的に採用している。
3. Falcon9の構造
第1段目ロケットの推進剤タンク壁は、アルミリチウム合金で作られている。タンクは摩擦撹祥溶接を使用して製造する。これは実用化されている中で最高強度を保ち、信頼性の高い溶接手法だからである。
第1段目は共通ドームがLOXとRP-1タンクを分離しており、内部には、断熱されたトランスファーチューブが通っている。これは、酸化剤であるLOXをロケットエンジンに供給するために、RP-1タンク中心を通り、ロケットエンジン部に導く。
第1段目と第2段目を接続している中間段は、複合材で製造されており、アルミのハニカムコアを炭素繊維の表面シートで覆っているものとなっている。
中間段は第1段目のタンク前端に固定されている。ステージ分離システムは、ステージ間の前端に位置し、2段目とのインターフェイスとなっている。第2段目は第1段目の短縮版であり、第1段目タンクと同じ材料、構造、治具、道具そして製造技術の大部分が同じである。これにより、低コスト化と合理化を図っている。
第2段目には、Merlin Vaccum エンジンが搭載されている。これは、165:1の膨張ノズルを持ったロケットエンジンで、再着火の信頼性を高めるために、エンジンには、「2重冗長」のトリエチルアルミニウムートリエチルボラン(TEA-TEB)自己着火剤が含まれている。2重冗長にしているのは、有人ミッションに対応させるためであろう。
これに加えて、第2段目には、窒素ガス(GN2)のコールドガス式姿勢制御システム(ACS)が搭載されている。これは、ポインティングとロール制御のためである。窒素ガススラスターはヒドラジンの様な有毒な推進剤ベースの姿勢制御システムよりも、信頼性が高く、化学的汚染がない。
第1段目には、複数のMerlinロケットエンジンが搭載されているため、それぞれのエンジンをジンバルさせることで、エンジン単体では出来ないロール制御も可能となる。しかしながら、第2段目は1台しかエンジンが搭載されてないため、ロール制御は、窒素ガススラスターによって賄っている。
4. Falcon9のステージ分離システム
第1段目と第2段目は、中間段の頭頂部と第2段目の燃料タンク底部との間に3か所でメカニカルラッチによって、固定・結合されている。第1段目エンジン停止後、高圧ヘリウムを用いたガス式の冗長性を持つアクチュエータを介して、ラッチを開放する。
ヘリウム加圧システムは、他にも4つの窒素ガス式押出し分離装置を与圧し、ラッチ解放後に、ステージ分離のための力を加える。これは、当初のFalcon9では、3つであったため、最新版のFalcon9にて、1個追加されて改良がなされた可能性が高い。
信頼性を高めるため、第1段目の中央に取り付けられた冗長のプッシャーは、分離後のステージ間衝突確率を劇的に減少させるように設計されている。これは、ロケット分離時には、まだ第1段目の推力が残っている場合があり、中途半端な押し出しでは、第1段目の推力が効いて、第2段目点火前にぶつかる可能性があるからである。
Falcon Heavyの場合、サイドブースターは2か所にてセンターコアに固定されている。2つの窒素ガス分離機構(ステージ分離機構の別バージョン)が各サイドブースタの2か所に一しており、上昇中は固定を維持するが、サイドブースターが燃焼終了後に、サイドブースターを切り離す。
更にもう2つの窒素ガス押出し分離機構が各サイドコアの後端部に設置されていて、サイドコア燃焼終了後、横方向に押し出すために使用される。
5. Falcon9のフェアリング分離システム
フェアリングについても、窒素ガス分離式である。これにより、実機の地上試験を複数回実施できる。(例えば、H-2Aは加工品を使用した方式で、1回しか使用できない)半分に分かれた2つのフェアリングは、フェアリング垂直の継ぎ目に沿って、メカニカルラッチで固定される。
フェアリング展開のために、高圧ヘリウム配管がラッチを開放し、4つの窒素ガス圧式押出し装置が2つのフェアリングの確実に展開する。窒素ガス圧式押し出し装置は、良好な衝撃環境が提供する一方、分離システムハードウェアを使用した事前試験が実施可能である。また、分離時に生じるデブリは最小限に抑えられる。
6. 事前の環境試験
ロケットエンジンについては、もちろん地上燃焼試験を実施しているが、プラスマージンを取った試験を実施している。つまり、極限環境でのテストを実施している。
Falcon1と同様に、Falcon9の第1段目は、大気圏再突入に耐えうる様に設計されている。実際に、地上に垂直着陸で戻ってきた動画は最近ではよく見られるが、これは、ロケット上昇時の耐久性と、再突入後のリカバリーの負荷両方の試験を実施している。
通常の状態に加えて、より厳しい側での試験、例えば、部品の幾何学的な位置合わせの不良、異常なタイミングにおけるシーケンス分離試験も実施されている。
7. 短期間での開発、高い製品品質、信頼性、均一性の実現
これまで通常のロケットは、再使用を前提とされていなかったが、再使用を前提としてFalconシリーズは設計されており、Falcon9や、Falcon Heavyは、第1段目、ブースターはフライバックして戻って来る様に設計されている。
これにより、他の企業とは異なる独特の機会をSpaceXは得ている。というのも、回収したロケット機体を基にして、ロケットシステム継続的に改善することが可能であるからだ。戻ってきた機体を調査し、設計と材料選択を継続的に評価可能である。ここに、SpaceXの強みがある。
クラスタリングさせた大量のロケットエンジン、有人飛行のために複数の冗長系を備えたアビオニクス等は、ロケット1機を製造するだけでも、ロケットに搭載する製品は複数生産しなければならない。これを継続することで、ロケットに搭載する製品を大量生産する結果、高い製品品質と均一性を実現出来る。
一方では、テレメータデータのみならず、ロケット実機が戻って来ることで、問題なく作動出来てたかどうかを実機で確認して知見を得れる。これらを常に開発にフィードバックさせることで、更に高い製品品質、信頼性、均一性の実現が可能となり、短期間の内にそれらを取得することが可能となる。
8. Falcon9の価格
標準価格を褐戦するという、以前の衛星打上げ会社にはない方針を取っている。価格設定には、射場サービス、標準ペイロード統合サービス、第三者賠償責任保険が含まれている。特注の非標準サービスも利用可能である。
(続く)
[1] Falcon9 Launch Vehicle Payload User’s Guide Rev1
https://www.spaceflightnow.com/falcon9/001/f9guide.pdf
[2] FALCON USER’S GUIDE JANUARY 2019
https://www.spacex.com/sites/spacex/files/falcon_users_guide.pdf
[3] 平成15年度| 第4章 特定検査対象に関する検査状況 第17 H—IIAロケットの開発等について
[4] H-2Aロケット6号機打上げ失敗, http://www.shippai.org/fkd/cf/CB0011026.html
0 件のコメント:
コメントを投稿