本棚は、単なる書庫であるのみならず、インテリアであり、個人が持てる最小単位の知識の源泉であり、本というコレクションのディスプレイ棚でもある。デザインの良い本棚は、色々な商品ラインナップがある。
しかし、固定された広い家を持つ人なら兎も角、度々引っ越しする人にとっては、本棚の機動性はとても重要だ。そこで、機動性を重視した本棚の選び方について、解説する。
1.「本棚」という家庭の中の知識庫
家の中で暇を潰そうとすれば、TV、スマフォ、PC等があるが、外部とのネットワークが遮断された状況でも、電源が無くとも、コンテンツを消費できる伝統的なメディアが、紙の書籍である。
情報産業が発達した現代でこそ、無限にストック出来、常に携帯できる利便性から電子書籍が流行っている。しかしながら、長期間の情報保存、閲覧する際の物理的制約のなさ(電子書籍は、複数持っていても一画面しか見れないが、紙なら3次元空間で広げれるだけ展開できる)等から、まだまだ紙の書籍の需要は多い。
電子化が進んだ現在でもなお、「紙の本が好きだ」という人は多いだろう。この嵩張るメディアを集約するストレージ、家庭の中の知識庫と言うべき存在が「本棚」である。
余談だが、最近では、子供の頃に家庭において本が何冊あったかが、大人になってからの読み書き能力、数学の基礎知識、ITスキルの高さに比例する事が知られている。
【参考文献】「自宅にあった紙の本の冊数」が一生を決める, https://toyokeizai.net/articles/-/245484
本を持っている事が重要か、それとも本を持っていなくとも、その知識が頭にあることが重要か。この課題は、長年考えてきた事ではあるが、両方必要なのではないか。知識を頭に詰め込む時間にも限界があるし、手元にあれば外部記憶装置として働く。書籍保有も重要ならば、どんな本棚を持つかということも重要だ。
2.本棚の機動性
紙の本を沢山買うのであれば、常に本棚を整備するという課題が付きまとう。紙の本は、まとめるとかなり大きな重量を持つから、沢山の本を収納できる本棚は、耐久性が高くなくてはならない。しかし耐久性が高いという事は、分解や移動の融通が利かない。
最近では、備え付けのカッコいい高級本棚や安く見栄え良い本棚は、巷に溢れている。しかしながら大抵の本棚は、幾度もの引っ越しに対応できる「機動性」を持っていない。理由は以下の通りである。
1. 備え付けのカッコいい本棚、高級本棚
重量が大きい、引っ越しに適さない。移動できない。高級な本棚は一体型で、分解出来ないから、そもそも機動性が無い。仮に移動出来たとしても、引っ越し費用が嵩張り、幾度もの引っ越しに対応出来ない。
備え付けの大型本棚には機動性がない
2. 安く見栄えの良い本棚
ホームセンター、ニトリ、IKEA等、セルフ組み立ての安物は、組み立て工程において木工用ボンド等を利用してはめ込みで組み上げるの基本である。回数を重ねるような、分解 ⇒ 組み立て ⇒ 分解⇒ 組み立てを複数回行う耐久性はなく、基本的に一回設置の使い捨て。
安くて見栄えの良い本棚にも機動性がない
購入時に分解状態で配達されるが、DIY組み立て工程に木工用ボンドや木ネジを使ってる等、分解して複数回再度組み立てが出来る仕様ではない物が多い。これらは、一回限りの設置を想定して製造されている。(右はボンドを多用する事が明記されている説明書例)
上記2つは、固定された広い家を持つ人なら兎も角、度々引っ越しする人にとっては、どちらも難しい選択肢だ。備え付けのカッコイイ高級本棚を買うと、それを移動させるだけの引っ越し費用が嵩む。一方、安くて見栄えの良い本棚を買えば、引っ越し時に分解できず、毎回粗大ごみとして捨てなければならない。
(本棚を沢山展開できる居住空間、スペースを確保できる方々が羨ましい…)
3.本棚機動性理論 Bookshelf Mobility Theory
そこで、「本棚機動性理論」(Bookshelf Mobility Theory)を提唱したい。この概念は、幾度もの引っ越しに対応した、簡単に分解出来て、軽くて丈夫な機動性のある本棚の最適解を探し、その提案を行う。必要な要件を次に掲げる。
- 多少のデザイン性
- 本棚として耐え得る構造強度
- 直ぐに分解出来、移動後再構築出来る機動性
- 本が増えた時の拡張性(追加部品の入手性)
3-1.機動性のある本棚の素材「スチール・鉄」
機動性のある本棚の素材。この結論は、金属である。恐らく鉄で出来たスチール本棚が価格や構造強度、分解の面でも最適解だ。決して木材で製造された本棚ではない。
本棚の素材として木材(大体は合板)は手軽だが、強度を持たせるために多くの厚みや量を必要とする。結果、本棚は重くなる。鉄は重いが、強度があるので、薄く少ない量で本棚の強度を支えれる。結果として、両者で作った本棚の重さは、大体変わらなくなる。
しかし、木材の天板である合板はたわむので、耐久性は鉄の方良い。また、天板のたわみサポートとして構造材で補強するのも鉄だとよく実施されているが、木材ではそれがなされていない。(このため、天板の横方向長さ距離を制限して区画を区切る本棚が多い)
これらの背景から、スチール本棚の勝利である。
スチール本棚(左)と合板本棚(左)の比較
スチールは素材の強度があり天板下を構造材で補強することもあり、横方向長さを長く取れるが、合板ではそれが出来ず、横方向長さを制限して区画を小まめに区切ることで、耐久性を実現している
合板によるDIY机(右)と合板の製品机(左)の比較
例として合板のみで作成した机(右)と鉄の構造材で補強した合板机(左)を示す。右の様に合板で机を作ると、たわみが出て来て使用に支障を来たす。左は合板下の端に沿ってスチールの構造材で補強されているため、たわみの問題を解決出来る。
全面等分布荷重 及び 中心集中荷重の計算関係式
素材の縦弾性係数(ヤング率)により、たわみが変わってくる
鉄は205(E/GPa)に対して、木材は13(E/GPa)
3-2.家庭用汎用スチールラック(メタルラック)は避けたほうが良い
素材は鉄が良いが、鉄のスチールラックでも、銀色ピカピカの汎用スチールラック・メタルラックはオススメはしない。学生等の一人暮らしに役立つ、安くて手に入りやすい定番品だが、機動型本棚として使用するのは下記の理由から、微妙である。
1. 本棚に専用設計されていない、見た目が悪い
台所から、居間まで、様々な置物棚として、汎用性を考えた最大公約数的な構造と作りになっている。つまり、本棚として専用設計されていない。このため幾つか、不都合な点がある。
まず、見た目がギラギラの銀色で、家具として落ち着かない。安っぽい。デザイン性が悪い。この家具デザインが合う場面は、台所ぐらいなのではないか。
本棚としての専用設計でもなく、メタルラックの本棚としてのデザイン性は皆無である
2. 別途、高い天板シートを買う必要がある
各段の面を形成する金網、細いスチール支柱の間は、スカスカであり、各段に本を置くとき、底面を面で支える為には、端から端まで横断する別売りのコルクボードやプラスチックボードを追加で買わなければいけない。
メタルラックには沢山の種類があるが、これらのボードは、通常付属しない。そして全てのメタルラックに必ずオプションとしてこれらのボードが容易されているとは限らない。製品としてないものは、その強度のボードを自作しなくてはならない。
また、販売されていたとしても、本体ラックとの値段との比率で、かなり値が張る。コストパフォーマンスが悪く、そこまでしてメタルラックを本棚に修繕すべく投資するよりは、本棚専用設計の物か、底面が平面で形成されている製品を選んだ方が良い。
メタルラックでは、天板がスカスカなので、別途シートを買う必要がある
そのシートも塩化ビニールのフニャフニャな物だったり。コルクボードだったり、薄いプラ板だったり、種類によってまちまちである。書籍を置くため、シートは固い物を選ぶ必要があり、追加の投資と売ってない場合は自作が必要となる。
3. 構造が貧弱、分解時の問題
4か所の支柱部分で支えるプラスチックの引っかけの固定であり、構造が貧弱である。ネジ等を用いて各部分が独立して外せる本棚に対して、分解時に力を入れて外していく必要があり、各段の取っ払いは、上から順番にしか外せないため、労力がかかる。簡単なのは、天板の部分を叩いて外すことだが、ラック平行部へのダメージは毎回かかって、歪む可能性が高い。分解時にプラスチックハンマーが必要となるだろう。
メタルラックは素材の変形、引っかかりに任せてプラスチックで固定されている
このため、構造が貧弱で、分解時の問題も存在する
4. 本棚としての大きさ不一致
奥行が本棚として利用するには大きかったり、各段のそれぞれの縦幅を大きく作っている。(狭くするには、追加段部品の発注が必要)そのため、デッドスペースができて、高密度収納には向かない。
本棚として縦も奥行きも過剰である場合が多い。高密度収納と、直接目的の本を一覧してピックアップし取り出しやすい利便性には不向きである。
3-2.汎用スチールラックでも本棚として使用可能な製品
一方で、汎用スチールラックであっても、本棚として、それなりに使用可能な製品もある。条件を以下に示す。
- 天板が全て穴や隙間が開いていないスチール板が使用されてること
- 購入時に奥行きの選択肢が、30cm程度の短いスペックの物が選べること(書籍の奥行きと対応、奥行きが大きすぎてデッドスペースを取らないデザイン)
- 縦幅の設定変更を小まめに出来ること(書籍の縦幅に自由に対応、縦幅が大きすぎてデッドスペースを取らないデザイン)
- 天板その他、追加部品のオプションが購入出来る入手性(通常の汎用スチールラックは、標準で多くの天板が付属していないため、縦幅の大きい本棚になりうる。このため、追加天板等を購入して、自分で任意に設計出来ると良い)
- エクステンション等可能な拡張性
- 色が選べると良い(部屋の明るさやイメージに合わせるため)
下記の画像は、1980年代から既にある、ホームセンター等での定番商品だが、奥行き31cmの物を選ぶことで書籍としては丁度良くなる。製品に加えて追加天板を買うことで、縦幅も調節できる。取り外しは、ボルトねじ止めなので、分解・解体からの移送、そして再構築も容易だ。
追加天板と固定具・ネジを追加し、拡張した汎用スチールラック例
通常の販売品2つをエクステンションを付けて合体させ、端4か所の支え支柱を伸ばし、2列約2m天井近くまで伸ばした例。更に上に段数を付けて、かつ必要な天板を追加して改造している。
Amazon等では、「ニューファンシーラック」の名前で以下、売られている。他にも追加の部品や互換製品がホームセンター等で比較的手に入りやすい。書籍用としては、奥行き30㎝程度の物を選ぶと良い(これは31cm)。天板はボルト止めなので、各段の高さは任意に決めれる。天板強度も横幅61cmあたり、1枚50kgあるので書籍用としても問題ない。キャスター等も付属で搭載可能。
3-3.結局、業務用スチールラック、スチール本棚になるよね
- 多少のデザイン性 ⇒ 色が選べる
- 本棚として耐え得る構造強度 ⇒ スチール・鉄構造
- 直ぐに分解出来、移動後再構築出来る機動性 ⇒ ボルト・ネジ止め式
- 本が増えた時の拡張性(追加部品の入手性) ⇒ 業務用、長く部品が手に入りやすい
こう考えて行くと、素材が「スチール・鉄」かつ分解容易の時点で、既に答えは出ており、ほとんど業務用のスチールラックか、スチール本棚に結論が落ち着く。
業務用スチールラックというのは、A4ファイルの資料等を陳列するために、よく使用される。書籍専用ではないため、ラックに壁はなく、オープンである。埃が4方向から入って来るが、これは仕方ない。壁に付け、なるべく縦方向を書籍の高さと同等に調整することである程度防ぐ。ただ、図書館や図書室でも、業務用スチールラックで陳列している所もあるのだから、プロ仕様とも言えなくもない。
一方で、業務用であると、1段毎の耐久重量が120kg、300kg等、耐荷重スペックが非常に高く、かなりのオーバースペックであるが、その分しっかりとしている。また、本専用だけで使用しない場合(物品のディスプレイ等にも合わせて使用の場合)やカスタマイズする場合は、業務用スチールラックの方が良いだろう。
横幅は、それぞれの部屋に合わせた幅があると思うが、奥行きについては、書籍用としては「奥行き30cm」が理想である。縦方向はフレキシブルに、ボルト・ネジ止めで天板高さを調整出来るので、あとは、高密度収納のために、天板を買い足して、入れて行けば良い。なお、追加部品として天板が別途買えない様な場合は、同じ製品を2つ買って、天板だけ部品どりということで抜き取る手法もある。
業務用軽量スチールラックの奥行き D300mmの製品群例
スチール本棚も選択肢ではあるが、部品の入手性や拡張性が不透明である。また、横揺れ等の耐久性を高く保ちたい場合は(細くて長いスチール製本棚は、ぐらんぐらん横に揺れる場合がある)、業務用スチールラックをお勧めする。なお、地震が来た時も、細いスチール本棚よりも、先に述べた業務用スチールラックの方が耐久性が高いと考える。
下記に紹介するのは、1枚当たりの天板の耐荷重が15kgの物である。業務用(120kg,300kg)に比べて1/10、汎用スチールラック(50kg等)に比べて1/3と劣り耐久性が心配であるが、書籍専用ということで奥行きが260mm等、コンパクトにはまとまる点は良い。
下記に紹介するのは、1枚当たりの天板の耐荷重が15kgの物である。業務用(120kg,300kg)に比べて1/10、汎用スチールラック(50kg等)に比べて1/3と劣り耐久性が心配であるが、書籍専用ということで奥行きが260mm等、コンパクトにはまとまる点は良い。
奥行きD260mmのスチール本棚の製品群例
3-4.スチール書架 プロ用(ただし分解移動が容易かは不明)
図書館等に納入されているスチール書架として下記の様なものもある。基本的にスチールで作られているので、分解可能だが、それが容易かどうかは不明である。
ただし、この様な書架は、部屋の中央に置くことを想定しているため、引っ越し頻度が多い人がこれだけの部屋のスペースを確保できるかは疑問である。壁に寄せるタイプの本棚を基本とすべきであろう。
4.その他の選択肢
スチールで出来た分解可能本棚が、本棚機動においては最強という結論は出たが、分解出来、移動可能な本棚として、下記の様な選択肢もある。
4-1.スチール支柱+合板の天板タイプの本棚
最大の特徴は、天板が支柱を貫くオープンタイプのシェルフなので、2つの本棚を購入すると、支柱同士を連結運用可能なことである。(仮想的な3列式になる)
5.まとめ
引っ越しを頻繁に行う人の本棚、機動性のある本棚として、容易に分解出来、追加部品が入手可能、耐久性を備える観点から、材質がスチールの業務用スチールラック、スチール本棚が最適解であることを提案した。
毎回本棚を引っ越しの度に持って行けるということは、固定式の書棚を常に設置している居住空間・スペースを確保できる家庭においても、部屋の模様替えで容易に移動できるメリットを持っている。
加えて、合板・木製の本棚よりも耐久性が高く(業務用スチールラックでは、一枚天板辺り、120kg、300kgの耐荷重性等)数十年単位で使用できると見込まれることから、この様な機動性のある本棚も購入の選択肢の一つになると考える。
References
[1] HEISHIN THE ENGINEER'S BOOK Vol. 19
http://ebw.eng-book.com/heishin/vfs/calculation/DiskMaximumStressAndDeflection/
[2] Amazon, https://www.amazon.co.jp/
[3] 金属のヤング率の一覧|金属材料の剛性の比較する一覧表,
https://www.toishi.info/metal/young_list.html
[4] https://idearoom.me/stealrack_joyfulhonda/
[5] http://matome.naver.jp/odai/2133312059597678501
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