2020年7月8日水曜日

SpaceX Merlin1 ロケットエンジンとマルチプルピントルインジェクター, SpaceX Merlin1 rocket engine and multiple pintle injectors

SpaceX Merlin1 ロケットエンジンとマルチプルピントルインジェクター,
SpaceX Merlin1 rocket engine and multiple pintle injectors






Update:2020.12.31




以前の記事で、SpaceXのMerlinエンジンはピントルインジェクターを搭載しており、公開されている特許情報から、ピントルチップ部分にアクティブ冷却機構を搭載している可能性を伝えた。しかし一方で、もう1つの可能性がある。それは、マルチプルピントルインジェクターを搭載している可能性である。


【関連記事】


なお、本記事の内容については、筆者の推定を多く含むことを注意して頂きたい。


        



1. 詳細不明のMerlin1 ロケットエンジンのピントルインジェクター




Merlin1Dロケットエンジンの写真とピントルインジェクター部拡大写真


米空軍(Los Angeles Air Force Base, Home of Space and Missile Systems Center)は、Falcon9ロケットのノズルスカートの中を撮影した写真を2020年1月9日に公開した。しかし、さすがに公開前に検閲を受けているだろうから、その詳細は拡大しても今だ不明である。燃焼時の焼き付きもあり、公開された写真はより不鮮明なものになっている。





2. Merlin1 ロケットエンジンがマルチプルピントルインジェクターを搭載している可能性


以前の記事で、SpaceXのMerlin1 ロケットエンジンはピントルインジェクターを搭載しており、公開されている特許情報から、ピントルチップ部分にアクティブ冷却機構を搭載している可能性を伝えた。一方で、もう1つの可能性がある。それは、マルチプルピントルインジェクターを搭載している可能性である。それは、前回記事にした様に、ノースロップグラマン社のTR-108ロケットエンジン仕様公開の例で明らかになった。

前回の記事でお伝えしたが、TR-108は、「ノースロップグラマンが開発した初めてのマルチプルピントルインジェクター型ロケットエンジン」である。しかしながら、「マルチプルピントルインジェクター」という技術は、TR-108において、世界で初めて実装されたのだろうか?

調査した所、「マルチプルピントルインジェクター」がTRW時代に開発されていたことを裏付ける資料は公開されたものは無く、特許情報についてもヒットしなかった。(具体的なアイデアが公開されていないだけで、単一のピントルインジェクターの特許情報の定義に含有される可能性もある)しかし、TRWがノースロップグラマンに買収される2002年より以前から、マルチプルピントルインジェクターの概念設計は実施されていた可能性が高いと筆者は考える。その理由は、以下の理由による。


  1. TR-108の開発では低コストの新規開発を目指していたため、新規開発要素を持ち込むのはリスクが高いこと。
  2. ピントルインジェクターは、他のインジェクターに比べて単純であるが、単一のピントルインジェクターにより推進剤を供給するには、サイズが大きくなりすぎる場合や、単一のピントルインジェクターで十分な能力を達成するのが困難と判断される場合が出てくると考えられ、その際に、複数のピントルインジェクターを持つ、マルチプルピントルインジェクターというコンセプトが開発されてもおかしくはない。
  3. インジェクターを単一のコンポ―ネントで実現する、通常のピントルインジェクターの方が、ロケットエンジンのインジェクターの方式の中では、異色であること。



他方、SpaceXが、マルチプルピントルインジェクターの技術を使用しているかどうかについての言及は、Web上で2020年7月現在、検索した結果、単なる「噂レベル」ですら存在しない。(下記画像参照)



Google USAの完全一致検索結果(2020年7月)






3. Merlin1Dのインジェクターに関する考察


以前記事にした中で紹介した、公開されているFalcon9ロケットを真後ろから撮影した画像を確認してみよう。解像度が荒いが、Merlin1Dロケットエンジンのピントルインジェクター部と思われる部分に、5カ所周辺と異なる色が存在する。(銅合金色)




Merlin1Dロケットエンジンのピントルインジェクター部


解像度が荒いため、これらの5点が立体形状か平面形状かは判断が付かない。(平面形状ならアクティブ冷却機構または治具取り付け部、立体形状ならマルチプルピントルインジェクターの可能性が高いと考える)以前の記事では、これを「平面形状」と考え、図の部分全体がピントルインジェクターだと考えた。従って、周辺と色が異なる5カ所の部分は、「アクティブ冷却機構または治具取り付け部」と判断した。

しかし、この配置は、中央点を取り囲むように4つの点が四角形を形成するように配置されている。これは、TR-108の様に(TR-108は7点の全体6角形形状)、マルチプルピントルインジェクターが配置されていると考えても違和感はない。また、最初に示した米空軍が公開した画像では、不鮮明ながら、TR-108と同じ6角形形状にも見える。この様に、Merlin1ロケットエンジンにマルチプルピントルインジェクターが搭載されている可能性は大いにあり得ると言える。



単一のピントルインジェクターを持つ Merlin1A エンジン


少なくとも、Falcon1ロケットのMerlin1A(推力34.67t (340kN))については、単一のピントルインジェクターであることが画像から判明している。(上記画像参照)下記の画像の様に単一のピントルインジェクターであり、中心には銅合金系の金属色が確認でき、ピントルチップ自体を冷却するアクティブ冷却機構あるいは治具取り付け部か固定具等ではないかと推測される。あるいは周囲がユニットになっており、この部分自体がピントルインジェクターの可能性もある。


Merlin1Dロケットエンジンをマルチプルピントルインジェクター化する利点は、筆者が考察した範囲で以下が考えられる。

  1. Falcon9に使用するMerlin1Dのロケットエンジン規模(推力:100t(981kN))では、当初開発したMerlin1Aの約3倍の推力に達している。この推力増強に追随して、フェイスシャットオフ機能を備えた単一のピントルインジェクター用の大型アクチュエータ-を搭載・動作させるよりも、5つまたは4つに分けたマルチプルピントルインジェクターに対して、それぞれフェイスシャットオフ機能を持たせた方が、システムの重量低減につながる可能性がある。
  2. マルチピントルインジェクターに、フェイスシャットオフ機能を持たせることで、新たに大型のフェイスシャットオフ機能を持つ、単一のピントルインジェクターシステムを開発する必要がない。ロケットエンジン推力から想定すると、システムの大きさ的には、以前の規模のピントルインジェクター設計の資産を引き継げ、最小の変更で、新型ロケットエンジンの開発が対応可能となる。
  3. Falcon9の第1段目の様に、地表着陸用のスロットリング機能を持たせる場合は、マルチプルピントルインジェクターシステムが有利に働くと考えられる。その理由は、単一の大型ピントルインジェクターでスロットリング制御するよりも、複数に分けて、それぞれを制御した方が、はるかに細かく容易に推力制御が可能と見られるからである。例えば、60%の推力で運用したい場合、単純に考えると、5つマルチプルピントルインジェクターの内、3つを開度100%、2つを開度0%で運用すれば良い。
  4. 複数のピントルインジェクターを持つために、故障時の対処手段の選択肢を持つことが出来、エンジンの信頼性が高くなる。


この様に推定を考えていくと、マルチプルピントルインジェクターを採用したTR-108よりも前に開発され、トム・ミュラーが開発に関わっていた、TR-106ロケットエンジン(LOX/LH2, 推力:294.9t (2892kN))、TR107ロケットエンジン(LOX/RP-1, 推力:499.66t (4900kN))のインジェクターの方式が気になるところである。

調査した所、少なくともTR-106については液体-気体混合型インジェクターであるが、単一の大型ピントルが使用されていた。しかしながら、TR-107については不明である。推力500tに迫る大型ブースターのTR-107が、マルチプルピントルインジェクター化されていたとすれば、トム・ミュラー率いるSpaceXがこの技術を用いる可能性は高い。



TR-107 ロケットエンジンの断面図と単一ピントルインジェクター


一方で、以前の記事に示した様に、Merlin1Dの該当部分は、アクティブ冷却機構や取付用の治具接続部だという可能性も捨てきれない。その理由としては以下が挙げられる。

  1. ピントルを増やすことで機構が複雑化する。
  2. TRW時代に開発された、大型のTR-106は、Merlin1Dの約3倍の推力規模に相当する。しかしながら、単一の大型ピントルを用いていた。


米国の税金が投入されているプロジェクトの契約を多数勝ち取っているとはいえ、SpaceXは、NASAと異なり、純粋な国の研究開発機関ではない民間企業である。自身のロケット開発も、自由市場の中で研究開発している。以前、「SpaceXの特許戦略と中国の特許情報無断使用例」の記事でもお伝えした様に、SpaceXのロケット開発の競争相手は、企業だけではなく、ロシア、中国を含めた世界各国と捉えており、特許という枠組みを踏み倒される相手も含まれる。従って、技術をパクられない様に、基本的にあえて特許を取らない道を選んでいる。

この特許を取得しない方針は、コカ・コーラやKFCの製造法と同じく技術内容を秘密にすることで他者よりも優位性を確保する手段であり、この手段を取っている以上、今後もMerlinロケットエンジンの技術的中身に関する詳細が公開されることは、ほとんど可能性がないだろう。

従って、これらの推論の検証を行う機会が今後あるかどうかは分からないが、現状の公開資料からは、Merlin1Dエンジンには、アクティブ冷却機構または、マルチプルピントルインジェクターを搭載している可能性は高いのではないかと筆者は考えている。



        



References


[1] Los Angeles Air Force Base, Home of Space and Missile Systems Center, 9th January, 2020
   https://www.facebook.com/SpaceandMissileSystemsCenter/posts/2933925223304839
[2] TRW's ultra low cost LOX/LH2 booster liquid rocket engine
     https://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.1997-2818
[3] orbit seals, http://orbitseals.blogspot.com/

















In a previous article, It was reported that SpaceX's Merlin engine has pintle injectors, and based on publicly available patent information, it may have an active cooling mechanism in the pintle tip section. But on the other hand, there is another possibility. It is the possibility that the device has multiple pintle injectors.


【関連記事】



Please note that the contents of this article include many estimates by the author.


        



1. Merlin1 rocket engine pintle injector with unknown details




Merlin1Dロケットエンジンの写真とピントルインジェクター部拡大写真


The U.S. Air Force (Los Angeles Air Force Base, Home of Space and Missile Systems Center) released this photo of the inside of the nozzle skirt of a Falcon 9 rocket on Jan. 9, 2020. However, as expected, it would have been censored before being released, so its details are still unclear even after being enlarged. Due to the burning process, the photos released to the public are more indistinct.




2. Merlin1 Rocket Engine May Have Multiple Pintle Injectors



In a previous article, It was reported that SpaceX's Merlin1 rocket engine has a pintle injector, and based on publicly available patent information, it may have an active cooling mechanism in the pintle tip section. On the other hand, there is another possibility. That is the possibility that it has multiple pintle injectors. This is evident in the case of Northrop Grumman's TR-108 rocket engine specification release, as described in the previous article.

As It was reported in my previous article, the TR-108 is "the first multiple pintle injector rocket engine developed by Northrop Grumman. However, was the "Multiple Pintle Injector" technology implemented for the first time in the world in the TR-108?

In my research, I found no published material to support the fact that "multiple pintle injectors" were being developed during the TRW era, and no hits on patent information. However, it is my opinion that the conceptual design of the multiple pintle injector may have been implemented prior to the acquisition of TRW by Northrop Grumman in 2002. However, it is very likely that the conceptual design of the multiple pintle injector was in place before TRW was acquired by Northrop Grumman in 2002. This is because of the following reasons.


  1. Since the development of the TR-108 was aimed at low-cost new development, it was risky to bring in new development elements.
  2. Although the pintle injector is simpler than other injectors, it is expected that there will be cases where the size of the injector becomes too large to be supplied with propellant by a single pintle injector, or where it is deemed difficult to achieve sufficient capability with a single pintle injector, at which point the concept of multiple pintle injectors could be developed.
  3. The normal pintle injector, in which the injector is realized with a single component, is more unique among rocket engine injector systems.



On the other hand, there is no mention of whether SpaceX is using the Multiple Pintle Injector technology, even at a mere "rumor level" as of July 2020, after a search on the web. (See image below)




Google USA exact match search results (July 2020)






3. Merlin 1D Injector Considerations



Check out the image of the public Falcon 9 rocket taken from directly behind, which  mentioned in previous article previous article. The resolution is rough, but there are five different colors on what appears to be the pintle injector of the Merlin 1D rocket engine. 



Pintle injector section of Merlin 1D rocket engine


Because of the rough resolution, it is not possible to determine whether these five points are three-dimensional or planar shapes. (If they are flat, they are likely to be active cooling mechanisms or jig attachments; if they are three-dimensional, they are likely to be multiple pintle injectors.) In the previous article, I considered them to be "flat" and thought that the entire area in the figure was a pintle injector. In the previous article, I considered this to be a "flat shape" and thought that the entire area shown in the figure was a pintle injector. Therefore, I judged that the five areas with different colors from the surrounding areas were "active cooling mechanisms or jig attachment areas.


However, this arrangement is such that the four points form a rectangle around the central point. It is not incongruous to think that the multiple pintle injectors are arranged like the TR-108 (the TR-108 has an overall hexagonal shape with seven points). Also, in the image released by the U.S. Air Force shown first, it looks like the same hexagonal shape as the TR-108, although it is unclear. Thus, there is a great possibility that the Merlin 1 rocket engine is equipped with multiple pintle injectors.



Merlin1A Engine with Single Pintle Injector


At least for the Merlin 1A (34.67t (340kN) thrust) of the Falcon 1 rocket, the image shows that it is a single pintle injector. (See the image above.) It is a single pintle injector as shown in the image below, and the center of the pintle injector has a copper alloy metallic color, which may be an active cooling mechanism to cool the pintle tip itself, or a jig attachment or fixture. There is also a possibility that this part itself is a pintle injector, as it is surrounded by a unit.


The advantages of converting the Merlin 1D rocket engine to multiple pintle injectors are as follows, as far as the author has considered.

  1. At the Merlin1D rocket engine scale (thrust: 100 tons (981 kN)) used for Falcon 9, the thrust is about three times that of the originally developed Merlin1A. Rather than installing and operating a large actuator for a single pintle injector with a face shutoff function to keep up with this increased thrust, it would be better to install a face shutoff function for each of the five or four multiple pintle injectors. This may lead to a reduction in the weight of the system.
  2. By providing the face shutoff function to the multiple pintle injectors, there is no need to develop a new single pintle injector system with a large face shutoff function. Based on the rocket engine thrust, the size of the system can take over the assets of the previous scale pintle injector design, and the new rocket engine can be developed with minimal changes.
  3. If a throttling function for surface landing is to be provided, as in the case of the Falcon 9 first stage, a multiple pintle injector system will be advantageous. The reason for this is that rather than using a single large pintle injector to control the throttling, it would be much easier to control the thrust by dividing it into multiple injectors and controlling each of them. For example, if you want to operate at 60% thrust, you can simply operate three of the five multiple pintle injectors at 100% throttling and two at 0% throttling.
  4. Having multiple pintle injectors gives you more options in case of failure, and increases the reliability of the engine.


Considering these estimates, we can see that the TR-106 rocket engine (LOX/LH2, 294.9t (2892kN) thrust) and the TR107 rocket engine (LOX/ RP-1, 499.66t (4900kN) thrust) were developed before the TR-108, which used multiple pintle injectors, and Tom Muller was involved in their development. RP-1, thrust: 499.66t (4900kN)).

From my research, I found that at least for TR-106, a single large pintle was used, although it was a liquid-gas mixed injector. The TR-107, however, is unknown. If the TR-107, which is a large booster with a thrust approaching 500 tons, is a multiple pintle injector, it is highly likely that SpaceX, led by Tom Muller, will use this technology.



TR-107 Rocket Engine Cross Section and Single Pintle Injector



On the other hand, as shown in the previous article, there is a possibility that the part of the Merlin 1D is an active cooling mechanism or a jig connection for mounting. The reasons for this are as follows


  1. Increasing the number of pintles makes the mechanism more complex.
  2. The large TR-106, developed during the TRW era, was equivalent to about three times the thrust scale of the Merlin 1D. However, it used a single large pintle.


Although it has won a number of contracts for projects in which U.S. taxpayer money has been invested, SpaceX is a private company that, unlike NASA, is not a purely national research and development organization. It is also researching and developing its own rockets in the free market. As I reported in my previous article, "SpaceX's Patent Strategy and China's Unauthorized Use of Patent Information," SpaceX's competitors in rocket development are not only corporations, but also countries around the world, including Russia and China, including those who would overstep the framework of patents. Therefore, SpaceX has chosen not to patent its technology in order to avoid being taken over.

This policy of not obtaining patents is a means of securing an advantage over others by keeping the contents of the technology secret, just like the manufacturing methods of Coca-Cola and KFC, and as long as this policy is taken, it is unlikely that the details of the technical contents of the Merlin rocket engine will be disclosed in the future.

Therefore, I am not sure if there will be an opportunity to verify these inferences in the future, but from the current public data, I think it is highly likely that the Merlin 1D engine is equipped with an active cooling system or multiple pintle injectors.




        



References


[1] Los Angeles Air Force Base, Home of Space and Missile Systems Center, 9th January, 2020
[2] TRW's ultra low cost LOX/LH2 booster liquid rocket engine
     https://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.1997-2818
[3] orbit seals, http://orbitseals.blogspot.com/




2 件のコメント:

  1. 非常に面白かったです。マーリンエンジンについて、elonmuskがしれっとa pintle injectorとツイートしているのがありました。ご参考になれば幸いです。
    https://twitter.com/elonmusk/status/1272649257837715456?s=20

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  2. 非常に面白かったです。マーリンエンジンについて、elonmuskがしれっとa pintle injectorとツイートしているのがありました。ご参考になれば幸いです。
    https://twitter.com/elonmusk/status/1272649257837715456?s=20

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