Japanese Industrial Technologies Spin Off from Fighter Aircraft License Production
ライセンス生産されたF-104J戦闘機 (©Orbit Seals, 2019撮影)
米国製戦闘機のライセンス生産で得た技術、ノウハウは、新幹線、自動車等の幅広い分野に民生転用された。では、具体的にどの様な日本の産業技術に民生転用されたのか、今回の記事にて紹介する。
民生技術が高度に発達し、軍用技術よりも進んでいる分野が散見される現代では、必ずしも言い切る事は出来ないが、歴史的には軍事技術は民生技術の先を行っているのが常であった。
特に、戦闘機のライセンス生産で得た技術は、高度経済成長期の日本を象徴する新幹線や自動車等の幅広い分野に転用された。軍需産業の確立している米国では禁止されている行為であるが、日本では逆に推奨された。
「主任設計者が明かす F-2戦闘機開発, 神田國一著, 並木書房」によると、F-2支援戦闘機開発時にも、新技術のライセンス生産を日本に渡すことによる、航空機産業分野に対する影響懸念が、米国議会の報告書に次の様に記載されている。
「米国と異なり、アジア各国は、軍用機と民間機の製造作業を必ずしも厳密に区別していない。機械や治具技術を身に着けた人の場所を軍用機製造場所から民間機製造場所に移動することができるということは、アジアの航空機工場の柔軟性を示すことになる。
例えば、日本の大きな航空会社では、軍用機の組み立てラインと民間機の組み立てラインを隣どうしに並べて設置してあることが少なくない。一つのラインで訓練した作業員が、隣のラインに移ることは時々ある。軍用機プロジェクトのために政府が購入した高価な複合材形成設備が、その後に民間機の部品製造に使われている。
この様に入手した技術は直接的に相乗的に軍用プロジェクトと民間航空機プロジェクトに交互に使用される。この様な仕組みを使って、アジアの国々は世界的な民間機市場のある分野で積極的に競合するようになった。」
では、過去において具体的にどの様な日本の産業技術に民生転用されたのか?
NEDOが公表している、平成22年度成果報告書 「戦略策定調査事業 航空機分野の戦略策定調査」では、レポートの公式見解として、戦闘機、軍用航空機のライセンス生産で得た技術転用の具体的な事例として以下が挙げられている。
ライセンス生産で得た、技術、ノウハウや、特許、知的財産の取り扱いが、当時どの様に行われていたかについては不明である。あえて特許を取得していない技術箇所が転用したのか、それとも1950年代~1960年代は、知的財産的なものに寛容な時代であったのか、それ以外なのかは、定かではない。
1. 自動車技術関連
◎自動車エンジン用オイルフィルタ
ノースアメリカンF-86F 戦闘機、ロッキード F-104J 戦闘機等のライセンス生産において、習得された航空機用高圧オイルフィルタ技術は、自動車用、工作機械用のオイルフィルタの性能向上に大きく寄与した。
◎ダクトホース
ロッキード F-104J 戦闘機用のダクトホース技術は、自動車産業に適用され、自動車用ダクトホース等の性能向上に大きく寄与した。
◎ラジエータ
ビーチクラフト T-34 練習機の熱交換器技術は、自動車ラジエータ、汎用ラジエータ等の熱交換器技術の性能向上に大きく寄与した。
◎ディスクブレーキ
ロッキード F-104J 戦闘機用のディスクブレーキ技術は、自動車用、及び鉄道用(特に新幹線)のディスクブレーキ技術として適用され、自動車、鉄道の制動技術の向上に大きく寄与した。
◎軸受
航空機ジェットエンジンの軸受製造技術、軸受技術は自動車向けに適用され、優れた耐久性を持った軸受を実用化した。
◎ブレーキライニング
ロッキード F-104J 戦闘機用のセラミックス・ブレーキライニング技術を、乗用車、バス等に適用。
◎ブレーキパイプ
ロッキード F-104J 戦闘機用の油圧パイプ・システムを、自動車用ブレーキシステム等に適用。
◎自動車用高圧パイプ、カップリングに波及
ロッキード F-104J 戦闘機の油圧システムを適用。
◎工具(プラスチック工具)
自動車向けプラスチック工具はノースアメリカン F-86 戦闘機向けのものを適用。
バス、自動車、汎用機械への応用。ロッキード F-104Jの強化プラスチック技術を適用。
2. 鉄道技術関連
◎ブレーキ装置(主にディスクブレーキ)
ロッキードF-104J用のディスクブレーキ技術は、鉄道用(特に新幹線)のディスクブレーキ技術として適用され、鉄道の制動技術の向上に大きく寄与した。
◎軸受
航空機ジェットエンジンの軸受製造技術、軸受技術により自動車用、鉄道用の優れた耐久性を持った軸受を実用化した。
3. 船舶技術関連
船舶用ガスタービン・エンジンは、航空機用ガスタービン・エンジンをベースとしている。
4. エレクトロニクス・電子技術関連
軍用機用のプリント基盤技術を民生に適用、両面プリント基盤技術の性能向上に貢献。
5. 産業機械技術
◎汎用向け油圧機器
航空機用油圧システム(ロッキード F-104J油圧装置の高圧技術)を汎用の油圧機器に適用。
◎玉軸受
航空機ジェットエンジンの軸受製造技術、軸受技術を適用することで、汎用軸受の技術性能向上
◎機械部品
ノースアメリカン F-86戦闘機の電解プロセス技術を各種機械部品に適用して、耐久性向上、軽量化を実現。
◎高圧用ホース、汎用ホース
ロッキード F-104J戦闘機用高圧ホース技術を、汎用の高圧用ホース、汎用ホースに適用して性能向上を実現。◎大型プレス、金属プレート成型
ロッキード F-104J戦闘機 胴体部の成型加工技術を、大型プレス、金属プレート成型技術へ応用。
◎切断、モールディング技術
ジェット・エンジン・パーツ・プロセス技術の適用。
◎生産管理、検査全般の品質管理能力の向上
ロッキード T-33練習機、ノースアメリカン F-86戦闘機における品質管理(QC)技術を広く、国内産業界に普及。References
[1] NEDO 平成22年度成果報告書 「戦略策定調査事業 航空機分野の戦略策定調査」,
https://www.nedo.go.jp/library/seika/shosai_201206/20120000000046.html
[2] 主任設計者が明かす F-2戦闘機開発, 神田國一著, 並木書房
[3] Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/
0 件のコメント:
コメントを投稿