前回の記事にて、日本初の宇宙用ロケットエンジンである、LE-1について解説を行なった。その中で、LE-Xについて、欠番を含めた解説と、LS-Aに搭載された第2段目用エンジンであることを紹介した。
◆三菱重工 LE-1 ロケットエンジン, 日本初の宇宙用ロケットエンジン,
MHI LE-1, Japanese First Liquid Rocket Engine for Space
https://orbitseals.blogspot.jp/2018/05/le-1-rocket-engine.html
今回紹介するのはLE-2、LS-A後継機のLS-C第2段目に搭載されたエンジンである。LE-2がそれに該当するということは、NASDAがAIAAに投稿した公式論文資料から判明している。(上記記事参照)
具体的な開発における不具合点等、情報量が多いため、2回に分けてお送りする。
第1回目は、イントロダクションである。
1.国立科学博物館 特別展示「空と宇宙展」
筆者は、2010年秋に国立科学博物館の特別展示:空と宇宙展で、「LE-2 ロケットエンジン」と解説された展示品を見たことがある。
国立科学博物館の常設展示では、LE-5ロケットエンジン、中庭のL-4Sロケットや東大宇宙科学研究所の固体ロケットモータが展示されている。しかし、空と宇宙展では常設では見れない代物が多々展示されてあった。LE-2もその中の一つであり、他の展示に比べて小さく展示台の上に、斜めに直置きされていた。
ポツンと置かれており、歩く人達は、足を止めてじっと見ている事が無かった様に記憶している。実際、Blog等を検索しても、「空と宇宙展」の記事は沢山あるのに、LE-2に言及された物が殆どない。(LE-2の画像を一片でも掲載しているWebを下記に記す)
Reference
[1] 国立科学博物館「空と宇宙展」, 2010年11月28日
http://stelo.sblo.jp/article/131175764.html
当時は、2010年6月に探査機はやぶさが帰還したこともあり、小さな宇宙ブームであった。そういう訳で、皆がはやぶさの実物大模型(大学生がバイトして作ったのだったか?)やイカロスのソーラーセールを眺めて写真を撮っている雰囲気であった。
そんな中、興味深そうに写真を撮り続ける人物が居た。そう、私である。(ドヤァ)
当時、展示内容を写真に撮った物及び解説文以下に掲載する。
2.国立科学博物館側の説明文
LE-2液体ロケットエンジン(管構造および二重壁)
LE-2液体ロケットエンジンは、宇宙開発事業団が昭和45年頃に開発を行ったLS-C型ロケットの第2段(液体ロケット)エンジンです。このエンジンは、燃焼室の向きを自由に変える様にジンバル装置で支えられるようになっています。日本で最初の液体燃料ロケットの実験に使用されたLE-2、LE-3エンジンは、発展型がH-Iロケットの第2段エンジンに使用されたLE-5型エンジンで、さらにその発展型がH-II型ロケットのLE-5A・B、LE-7エンジンとして使われています。
赤字ラインは、完全に誤りである。そもそも前記事の様に、LS-AロケットのLE-1エンジンが存在したし、戦前の秋水等の軍事研究、あるいは民間の研究が存在するため、日本最初とは言えない。宇宙への飛行実験においても、地上燃焼実験においても、最初ではない。
LE-「2」と書かれているのに、LE-「1」は何処に行ったか、疑問に思わないのだろうか?
3.LE-2 ロケットエンジンの写真(筆者撮影, 2010, ©Orbit Seals)
LE-2の展示は、ごろんと、展示台に置かれていた。
4.外観写真のみからの気づき事項
筆者が外観写真のみからの単純な気づき事項を以下、書き連ねる。
LE-2自体、見るのが初めてだったので、事前情報は、この時点で全くない。
- 説明文にも書いているが、ジンバル装置首振りを行うエンジンである。
- ジンバル時に稼働可能な様に、燃料をエンジンに導く、フレキシブルチューブの存在が2本確認できる。(1本ずつ燃料、酸化剤と思ったが、酸化剤はフレキを通さない可能性を考えた)
- 互いに交差しているフレキは、ジンバル時に干渉しないための配置と推測される。
- エンジン頭部に三角型のジンバルマウントが存在する。
- ジンバルマウント下には、2つの軸が備わっており、2軸方向に稼働する。
- ジンバルマウントには、手前側に燃料ポートが固定されており、フレキシブルチューブを通じて、燃焼室頭部のバルブ?に導かれている。
- 「ROCKET FUEL→」と米国規格の表示で配管にシールが貼ってあるので、これを確認出来る。
- 写真では分からないが、見えない向こう側にもう一つ燃料ポートがジンバルマウントに固定されて存在すると考えられる。(そうでなければ、フレキの意味が薄れる)
- 再生冷却方式である。管構造及び二重壁構造を組み合わせた方式の模様。
- 管構造の部分は、燃焼室中間から上部にかけて適用されている。経年変色が進んでいる「管構造式」と書かれ張り付けられた説明文からも、それが分かる。(このLE-2は、どこかで展示されていたのだろうか?)
- 管構造の部分はエンジンの軸方向に対して平行に再生冷却の管が走っている。表面の処理から、矩形断面管を円形に配置している様だ。
- これらは、ろう付け等で互いを接合しているため、燃焼室内の燃焼圧力から耐える様に、写真の様に5つの補強リングで固定されている。補強リングは、手前側中心で溶接されている。
- 補強リングは、上からスプレーやメッキがされていないにも関わらず、特段錆びていないので、ステンレス鋼等の合金を用いていると思われる。一律、上から耐熱塗料やメッキが施されていないことは、補強リングと管構造の色の違いから判断できる。
- Rocketdyne社は、当時管構造式の再生冷却の特許を保有していたが、三菱重工は、Rocketdyneに特許使用料を払ったのだろうか?Qロケット開発時であり、技術導入前と考えられるが。
- Rocketdyne社の管構造式再生冷却の補強リングは、ロケットエンジンは消耗品との観点から、ケチれる所は出来るだけ安い材料を使用したため、錆びが出る。このため、製品完成後に上からメッキ等を施したが、LE-2は特段メッキなしで錆びてない所を見ると、良い材料が使われている様だ。
- 燃焼室頭部の燃焼室より径が大きいマニフォールドは、溶接痕から判断するに、アルミ合金製。恐らく、燃料用。(硝酸にアルミは使いたくないと思われるので)
- 奥側が見えないが、マニフォールドに対して、フレキが2本投入されている様に見える。半分ずつ燃料を分けて供給することで、燃料供給圧力の平滑化を図ったか?
- エンジン頭部は、バルブ類が配置されている?(もう少し角度変えて撮っておくべきであった)
- 再生冷却構造部分を持つ燃焼室と、ジンバル・バルブを含む燃焼室頭部は、最終的にボルトで連結されて製造されると見られる。エンジン頭部外側に円周上にボルトが配置されている事、そしてノズル側から取った内部写真において、燃焼室壁面と燃焼室頭部壁面が明らかに分かれていることから、その様に推測される。
- 燃焼室壁面は、再生冷却に加えて、フィルム冷却を実施している。
- インジェクターは衝突型。円周上に燃料・酸化剤、合わせて9箇所エレメントが配置されている。(フィルム冷却は別)
- エンジン外壁(燃焼室中央~ノズル)は、旋盤による削り出しで製造した可能性がある?切削跡?が確認できる。
- 「管構造および二重壁」との解説及び外観から、「管構造」は燃焼室外壁に適用しており、そこから下のノズルスロートに行く手前~ノズルスカートまでは、ごつい金属で出来ているため、「二重壁」式の再生冷却構造だと考えられる。
- ノズル末端付近に配管がないため、上から投入した燃料が再生冷却流路を通って、往復してまた上に戻ってきた上で、インジェクターから噴射していると考えられる。
- 1枚目写真手前側ノズル端部にマイナスネジが付属している。何らかの固定部と考えられる。
今から思えば、全体的に、片面からしか撮影してなかったのが悔やまれる。次回は、調査して得た資料を基に、LE-2ロケットエンジンの詳細について述べていく。
(次回に続く)
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