2018年5月17日木曜日

SpaceXの特許戦略と中国の特許情報無断使用例, SpaceX Patent Strategy and Chinese patent information unauthorized use case

SpaceXの特許戦略と中国の特許情報無断使用例,
SpaceX Patent Strategy and Chinese patent information unauthorized use case




1. 特許をあえて取得しないSpaceX


SpaceXは、基本的に特許を取らない方針を持っている。これについて、以前イーロンマスクCEOは、TED公演内で「宇宙開発ビジネスの競合相手はロシアや中国といった「国家」であるための措置である」と語っている。

ライバル達に特許権利を強制させる事が難しい事を理由に上げて、特許技術がパクられても、使用停止や金銭要求を強制できない可能性が高い事を想定した対策であると説明した。つまり、特許を取らない方がリスクが少ないという方針だ。





本論とは関係ないが、18分で「cold gas thruster」を「coaled gas」と間違えて、「石炭ガス噴射器」と日本語訳しているのは、面白い。





2. 数は少ないが、取得している特許もある


数えるほどしかないが、取得している特許もある。それが、以前で紹介した「アクティブ冷却式ピントルインジェクター」である。

2004年年9月8日に、TRW元社員で、現SpaceX副社長のTom Muller(Thomas J. Mueller)の名前でSpaceXから特許が出願されている。



SpaceXの特許技術:アクティブ冷却式ピントルインジェクター


これは下記にて、別途解説している。


SpaceXとロケットエンジンのピントルインジェクター (第2回), SpaceX and Rocket Engine Pintle Injector (2)
http://orbitseals.blogspot.jp/2018/04/spacex-2-spacex-and-rocket-engine.html






3. 特許をオープンソース化した、テスラ・モーターズ


特許を取得しないSpaceXの一方で、同じくイーロンマスクCEOが経営するテスラ・モーターズは、2014年6月12日、所有する特許を全てオープンソース化するという発表を行っている。

これは、SpaceXの方針とは矛盾する様に見えるが、以下の様に以前起業したZip2からの経営の中で、特許に関する認識と扱いが徐々に変わってきた事を示している。


全面開放に至った背景をイーロンマスクCEOは、「真の競争相手は他社ではなく、世界中の工場から吐き出されるガソリン車なのだ」と述べている。
私がZip2を起業した時、特許は良いものであると考えていたし、特許を取得するために努力した。それはすごく昔の話であるかもしれないが、近頃、特許は進展を抑えつけ、大企業の地位を確立させ、特許発明者ではなく弁護士の懐を肥やすだけとなっている。 
Zip2の後、特許を取得することが、実は訴訟への宝くじを買うようなものであると気づき、できるだけ避けるようにしてきた。

出典:テスラのイーロン・マスク、特許を全面開放する決断に込められた「信念」, https://www.huffingtonpost.jp/2014/06/13/tesla-motors-patent_n_5490702.html





4. ロシアと中国との戦い


SpaceXは、競争相手は企業だけでなくロシア、中国を含めた世界各国と捉え、パクられない様、基本的にあえて特許を取らない道を選んだ。この特許を取得しない方針は、コカ・コーラやKFCの製造法と同じく技術内容を秘密にすることで他者よりも優位性を確保する。

特許情報は基本的に公開され、その権利は期限付だが、情報流出せず他者が同じ事を考えない限りにおいて、利益を得る。

彼らは、国の機関ではなく一民間企業なので技術情報の公開義務はない。NASA等と打上げ契約を結んでも、直接的に税金にぶら下がった技術開発している訳ではない。学術論文投稿の義務もない。これは、企業利益の枠組みの中で宇宙開発を実施している同社の強みだ。

機体やフェアリングを回収しようと試みてるのは、再使用以外にも技術情報流失防止も意図されてると見えるのは考えすぎだろうか?また特許を取らず技術情報を秘匿する方針を取るに当たって、情報流出防止のための社内情報セキュリティの枠組みと、そのレベルが気になる所である。






5. 中国の特許情報無断使用の実例


実際、イーロンマスクが懸念している特許情報を無断で使用するという実例は、日本の家電産業でも発生している事実である。例えば、中国等の新興国が日本の特許データベースに頻繁にアクセスしている事はよく知られている。

その目的は、データベース本来の使用方法である「特許出願や特許料を払うため」ではなく、特許情報を参考にして製品を開発する、いわゆるパクリの参考にするためである。

1日あたりの日本の特許庁へのアクセス数は、2005年の時点で、中国から1万7000件、韓国から5万5000件に登る。これ程大量のアクセスは、何を意味するだろうか?



既に14年前の話になるが、日本貿易振興機構北京センターの後谷陽一・知的財産権室長は、2004年夏、青島市にある中国最大の家電メーカー『ハイアール』グループの本社を視察して衝撃を受けた。

(因みに、日本の電機メーカだった三洋電機はパナソニックに買収された後、2012年1月に三洋電機の白物家電部門をハイアールに売却した。)


同社の知財部門担当者が胸を張り、次の様に語った。
「数十台のパソコンで、日米欧の特許庁に寄せられた特許出願情報を検索し、製品化に役立つ研究開発情報を利用させてもらっている。だから、当社は研究費が非常に少ない」と。



      



References
[1] TED日本語 - イーロン・マスク: テスラモーターズ、SpaceX、ソーラーシティの夢,
      http://digitalcast.jp/v/16778/
[2] The mind behind Tesla, SpaceX, SolarCity ... | Elon Musk
      https://youtu.be/IgKWPdJWuBQ
[3] 読売新聞, 流出する特許情報, 2005年7月1日
[4] 特許日記 「流出する特許情報」の記事について,   
  http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/touch/20050701
[5] 知的情報財産の重要性, http://sdb-ri.com/data/papers/2006.05.pdf
[6] テスラのイーロン・マスク、特許を全面開放する決断に込められた「信念」, https://www.huffingtonpost.jp/2014/06/13/tesla-motors-patent_n_5490702.html


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