(前回からの続きです)
LE-2ロケットエンジンは、推力3500kgf級であり、LE-1(推力1000kgf)の3.5倍、MHI 長崎造船所が戦時中に手がけた、有人の秋水ロケット戦闘機のロケットエンジン(推力1500kgf)よりも、2倍以上の推力を達成する必要がある。このため、開発では今までにないトラブルに見舞われる事となった。
本エンジンは、LS-Cロケットに搭載されたが、元々、Qロケット(後にNロケットに計画変更)の第3段エンジンとして開発が進められていたものである。LE-2(推力3500kgf級)で得られた知見は、後のNロケット 第2段目エンジン:LE-3(推力5445 kgf)開発に大いに生かされる事となったであろう。
1.LE-2とLS-Cロケット 開発経緯
LS-C ロケット
工場内でアライメント、重心測定を実施している様子
工場内でアライメント、重心測定を実施している様子
LS-Cロケットの開発は、LS-Aロケットの後継として、1966年から開始された。これに搭載される第2段目ロケットエンジンがLE-2である。
LE-2は、元々科学技術庁宇宙開発推進本部で計画されていたQロケットの第3段目として開発が決定された。これは、4段式ロケットであり、3段目:LE-2 ロケットエンジン、他1,2,4段目は固体ロケットモータの構成(直径1.4m、高さ25.5m、重量34.1t)である。
このため、LS-Cロケットは、観測ロケットの名目で開発されたが、Qロケットに搭載するLE-2ロケットエンジンのテストベッドでもある。ロケットの構成は、第1段目:固体燃料ロケットモータ、第2段目:LE-2 液体燃料ロケットエンジン、となっている。
LS-Cには、推力方向制御実験として、ジンバル方式が採用され、別途ロール用のガスジェットも搭載されていた。空気が無く、舵が効かない高高度、宇宙空間での液体燃料ロケットエンジンの燃焼、ジンバル制御、ガスジェット制御、その他搭載機器等に関して、Qロケットを開発するための基礎データを得ることは、必要不可欠であった。
Qロケット計画は、その後、米国から技術導入を行う、DeltaロケットベースのN-Iロケット計画に変更された。これにより、1970年には、N-Iロケットに搭載する第2段用エンジン:LE-3開発へと目的が変更された。得られた知見は、米国のチェックアンドレビューを受けてLE-3ロケットエンジンを開発する際に、活用されたと見られる。
計画変更が無ければ、LE-2ロケットエンジン開発完了後、これを改良して、N2NO4/エアロジン-50の採用、高膨張比化、信頼性の向上を図ったエンジンを開発する予定であった。
1966年のLS-C開発に先立ち、LE-2は、1965年から開発が開始された。
LE-1と同じく、製造担当は、現在の三菱重工 長崎造船所である。LS-Cロケット機体側(第1段、第2段目)共に、LS-Aと同じく、三菱重工が主契約者であった。
このため、LS-Cロケットは、観測ロケットの名目で開発されたが、Qロケットに搭載するLE-2ロケットエンジンのテストベッドでもある。ロケットの構成は、第1段目:固体燃料ロケットモータ、第2段目:LE-2 液体燃料ロケットエンジン、となっている。
LS-Cには、推力方向制御実験として、ジンバル方式が採用され、別途ロール用のガスジェットも搭載されていた。空気が無く、舵が効かない高高度、宇宙空間での液体燃料ロケットエンジンの燃焼、ジンバル制御、ガスジェット制御、その他搭載機器等に関して、Qロケットを開発するための基礎データを得ることは、必要不可欠であった。
LS-Cロケット用ガスジェット制御装置(LS-C 4号機のフライトモデル)
円形の機体に対して4方向にスラスタが付いている
計画変更が無ければ、LE-2ロケットエンジン開発完了後、これを改良して、N2NO4/エアロジン-50の採用、高膨張比化、信頼性の向上を図ったエンジンを開発する予定であった。
1966年のLS-C開発に先立ち、LE-2は、1965年から開発が開始された。
LE-1と同じく、製造担当は、現在の三菱重工 長崎造船所である。LS-Cロケット機体側(第1段、第2段目)共に、LS-Aと同じく、三菱重工が主契約者であった。
(LE-1に関する記事は、下記で書いています)
◆三菱重工 LE-1 ロケットエンジン, 日本初の宇宙用ロケットエンジン,
MHI LE-1, Japanese First Liquid Rocket Engine for Space
2.LS-C ロケットの仕様
全 長:約11m(1号機:10300mm~7号機:11335mm)
第1段目:約7.1m, 第2段目:約3.2m
胴 径:第1段目:Φ566mm, 第2段目:Φ600mm
質 量:約2.5t(2338kg~2552kg)
第1段目:固体ロケットモータ(固体推進材は旭化成製造)
平均推力:15000kgf~16800kgf(フライト中)
燃焼時間:10.16s
第2段目:LE-2 ロケットエンジン
平均推力:3200~3400kgf(フライト中)
燃焼時間:38.9s
※各機によって、仕様にはばらつきがある
3.LE-2 ロケットエンジン 諸元
推 力 :3500kg(海面上)
比 推 力 :178 s
比推力(試験値):203s (5噴流衝突型, 燃焼効率96%)
196s (3噴流衝突型, 燃焼効率94%)
推 進 剤 :硝酸(白煙硝酸)/UDMH(非対象ジメチルヒドラジン)
燃 焼 時 間 :38.9 s (ミッション時間)
165 s(地上確認値)
160 s(科学技術庁要求仕様)
燃 焼 圧 力 :15 atm
再生冷却方式:管構造
エンジン質量:48.5kg(バルブ、配管類を含む)
推力重量比 :72.3
推進剤供給法:ガス加圧方式(N2またはHe)(科学技術庁要求仕様)
◆写真・資料からの気づき
比 推 力 :178 s
比推力(試験値):203s (5噴流衝突型, 燃焼効率96%)
196s (3噴流衝突型, 燃焼効率94%)
推 進 剤 :硝酸(白煙硝酸)/UDMH(非対象ジメチルヒドラジン)
燃 焼 時 間 :38.9 s (ミッション時間)
165 s(地上確認値)
160 s(科学技術庁要求仕様)
燃 焼 圧 力 :15 atm
再生冷却方式:管構造
エンジン質量:48.5kg(バルブ、配管類を含む)
推力重量比 :72.3
推進剤供給法:ガス加圧方式(N2またはHe)(科学技術庁要求仕様)
LE-2ロケットエンジン 図面
LE-2のLS-Cロケットに対する組付作業、後ろにスリーダイヤマークが見える
全コンポーネントを統合した縦置きの燃焼試験準備と見られる
全コンポーネントを統合した縦置きの燃焼試験準備と見られる
三菱重工 長崎造船所の海岸縦置きテストスタンドによる
LE-2ロケットエンジン燃焼試験
(上記写真で写っているスリーダイヤと「長崎」という文字が見える)
開発時の不具合を改良したLE-2の燃焼試験
上記写真よりも古い写真であり、上で写っている左側の塔がまだ未完成状態である
より大型の燃焼試験スタンドを建築してた模様
LS-Cロケットのエンジンとジンバルを統合した事前確認試験
(左:LS-C 3号機)
◆写真・資料からの気づき
- 第1回目で、マイナスネジが付属したロケットノズル先の部分は、熱電対等のセンサを固定している。
- フレキシブルチューブは、実機形態でも交差されて使用されており、ジンバル干渉を防ぐためという推測は合っている様に見える。
- 再生冷却構造部分を持つ燃焼室と、ジンバル・バルブを含む燃焼室頭部は、最終的にボルトで連結されて製造される事は、資料から確認した。
- インジェクターはマニフォールドを介して、酸化剤/燃料の部分が交互に円周上に配置される構造と考えられる。
2.LE-2 ロケットエンジンの製造
LE-2の再生冷却管の成型は、外径5.32mm、肉厚0.3mmのステンレス鋼製精密管を用意し、内部にパラフィンを詰めて、電動パイプ成形機により長手方向に断面積を変化させる事で行われている。その後、焼きなましを行って、油圧プレスにより規定形状へ曲げ、加工を行う。
燃焼室は、プレス加工によって規定寸法に成型したパイプを組み立て治具を用いて、配置し、高温ろうを用いて、炉内でろう付けを実施、燃焼室内の漏れ検査には水圧による強度試験を実施して品質補償を行っている。
3.LE-2ロケットエンジンの開発
LE-2ロケットエンジンは、推力3500kgf級であり、LE-1(推力1000kgf)の3.5倍、MHI 長崎造船所が戦時中に手がけた、有人の秋水ロケット戦闘機のロケットエンジン(推力1500kgf)よりも、2倍以上の推力を達成する必要がある。このため、開発では今までにないトラブルに見舞われる事となった。
具体的には、以下の不具合事象が発生している。
- 振動燃焼
- ハードスタート
- 燃焼室の破損
- 再生冷却流路の焼損
初期製造のLE-2を地上燃焼させたオシロスコープの履歴(1~6回目)
燃焼時間各10秒を計画していたが、全6回の試験で、いずれも満足する成績が得られなかった。いずれも3~4秒以内に異常な挙動を示し、試験中止あるいは燃焼終了後に確認すると破損状態になっている。このため、解決の対策を模索する事となる。
3-1.振動燃焼(低周波振動燃焼)
製造後、最初の6回の試験全てで、振動燃焼が観測された。平均幅10~15%の低周波振動である。致命的な物ではないが、対策を行うと判断された。これらの振動燃焼は、その振動数から、燃焼室の縦軸振動であることが分かる。
◎不具合対策
推進剤供給配管系統に原因があるとして、小推力の基礎試験を行い、データを取得した。噴射差圧を高く取る事によって、噴射差圧2kg/cm2以下の場合に振動が発生したため、これ以上の場合振動は起こらない事を突き止め、噴射差圧を高く取った。
ここでは、横軸振動ではないので、バッフル等は必要としてない。
3-2.ハードスタート
第1回目、2回目はハードスタートが発生。始動時に160~200%の圧力ピークを観測している。
◎不具合対策
着火遅れ等のデータを取得。1秒以内の燃料先行、酸化剤先行のデータを取得した。
これにより、スタート時の燃料、酸化剤のタイミングは、最もスタート時のピークが少ない0.2 s、燃料先行とした。また、スタートバルブ、調整バルブの配置を以下の様に改良してた事で、上手く行った。
当初:タンク → 始動バルブ → 冷却ジャケット → インジェクタ
改良:タンク → 冷却ジャケット → スタートバルブ → インジェクタ
スタートバルブを噴射直前持ってくる事で、着火遅れを制御した。バルブの配置が、ロケットエンジンシステムの安定性を場合によっては左右する一例である。
この時にスタートバルブを燃焼室直前に配置したことは、燃焼室頭頂部に配置したバルブの内の1つとなっていると考えられる。
余談だが、ソ連はこの辺の解決手法としてを配管途中にバッファータンクを配置して解決している。
6回の試験全てで、燃焼開始3~5秒で、ガス漏れ、パイプ局所的割れ、へこみを確認。
◎不具合対策
初期に製造したLE-2の仕様は、片道式燃焼室であり、最初の試験はその仕様で実施された。これに対して、往復式燃焼室を採用する事により、燃料の圧力損失は増大するが、冷却性能が優れるという計算結果を出した。
このため、燃焼室冷却を片道式から冷却性能の優れた往復式へと変更した。
焼損、破壊した燃焼室の再生冷却管を調査したところ、管のブレージング部とその近くの管母材とから我が発生していた。割れた箇所から採取した試験片の引張強度試験の結果、規定値以上に高いが、伸びは極度に少ない事が分かったため、ろう付法に問題があることが判明した。
◎不具合対策
ろう材選定、ろう付施工法を確立するため、基礎試験を実施。下記表に示す6つのろう材に対して、4項目の評価を実施した。
その結果、燃焼室ブレージングは、当初使用していたニクロブレーズ125を取りやめ、じん性の大きい、ニクロブレーズLMに変更し、アルゴン雰囲気中でのブレージングで製造を行う事となった。
◎不具合対策
着火遅れ等のデータを取得。1秒以内の燃料先行、酸化剤先行のデータを取得した。
これにより、スタート時の燃料、酸化剤のタイミングは、最もスタート時のピークが少ない0.2 s、燃料先行とした。また、スタートバルブ、調整バルブの配置を以下の様に改良してた事で、上手く行った。
当初:タンク → 始動バルブ → 冷却ジャケット → インジェクタ
改良:タンク → 冷却ジャケット → スタートバルブ → インジェクタ
スタートバルブを噴射直前持ってくる事で、着火遅れを制御した。バルブの配置が、ロケットエンジンシステムの安定性を場合によっては左右する一例である。
この時にスタートバルブを燃焼室直前に配置したことは、燃焼室頭頂部に配置したバルブの内の1つとなっていると考えられる。
余談だが、ソ連はこの辺の解決手法としてを配管途中にバッファータンクを配置して解決している。
3-3.燃焼室の焼損(機械的特性の不具合)
6回の試験全てで、燃焼開始3~5秒で、ガス漏れ、パイプ局所的割れ、へこみを確認。
◎不具合対策
初期に製造したLE-2の仕様は、片道式燃焼室であり、最初の試験はその仕様で実施された。これに対して、往復式燃焼室を採用する事により、燃料の圧力損失は増大するが、冷却性能が優れるという計算結果を出した。
このため、燃焼室冷却を片道式から冷却性能の優れた往復式へと変更した。
3-4.再生冷却流路
第2回目(上)と第5回目(下)の燃焼試験後、燃焼室状況
焼損、破壊した燃焼室の再生冷却管を調査したところ、管のブレージング部とその近くの管母材とから我が発生していた。割れた箇所から採取した試験片の引張強度試験の結果、規定値以上に高いが、伸びは極度に少ない事が分かったため、ろう付法に問題があることが判明した。
◎不具合対策
ろう材選定、ろう付施工法を確立するため、基礎試験を実施。下記表に示す6つのろう材に対して、4項目の評価を実施した。
- ろうのぬれ性能
- ろう付部の硬度
- ろう付部の強度
- ろう付による母材の脆化
ろう材の化学成分とろう付温度
その結果、燃焼室ブレージングは、当初使用していたニクロブレーズ125を取りやめ、じん性の大きい、ニクロブレーズLMに変更し、アルゴン雰囲気中でのブレージングで製造を行う事となった。
3-5.改良後のLE-2試験結果
不具合対策を施し、改良して製造したLE-2の試験は、12回実施され、全てについて成績は良好であった。
下記の表以外にも、1967年には、引き続き追加で12回の試験を実施した。この中には、ロケットエンジンの急停止試験、燃焼時間を増加させた試験、ジンバル作動試験等が含まれる。
4.LS-C ロケットの打上げ
LS-C ロケット発射の様子
LS-Cは、LS-Aと異なり、新島から種子島宇宙センターの竹崎射場に場所を移して、打上げが実施された。
以下が打ち上げ実績となっている。これを見ると、2号機は不明だが、到達高度が、広く宇宙空間への境界と言われている、100kmも行っていない所が目につく。また、LS-Cの最終機である7号機では、LE-3を搭載しているが、失敗という結果になっている。
◆LS-C 1号機(1969年2月6日 打上げ)
LS-Aで使用したLE-1ロケットエンジンを搭載した機体であった。
第1段燃焼末期に爆発により、ステージが分離。失敗。
ただし、第2段目は点火後、正常に飛行。
◆LS-C 2号機(1969年9月10日 打上げ)
LE-2ロケットエンジンを初めて搭載した機体。
失敗。第1段、第2段分離が出来なかった。
◆LS-C 3号機(1970年2月3日 打上げ, 到達高度:65km, 水平距離150km)
成功。LE-2の性能及びジンバル機構の動作を確認。
◆LS-C 4号機(1970年9月9日 打上げ, 到達高度:45km, 水平距離165km)
成功。ジンバル制御作動試験、ジャイロ、ガスジェット制御装置制御試験。
◆LS-C 5号機(1971年9月10日 打上げ, 到達高度:53km, 水平距離150km)
成功。ジンバル制御作動試験、ジャイロ、ガスジェット制御装置制御試験。
LS-Cロケットとしては、失敗と成功が入り混じる中、試行錯誤がなされた。
液体ロケットエンジンの点火、燃焼、制御においては、7号機を除いて、おおむね成果を得たが、それ以外のシステムでは、いくつもの不具合事故を起こした。
LS-Aで使用したLE-1ロケットエンジンを搭載した機体であった。
第1段燃焼末期に爆発により、ステージが分離。失敗。
ただし、第2段目は点火後、正常に飛行。
◆LS-C 2号機(1969年9月10日 打上げ)
LE-2ロケットエンジンを初めて搭載した機体。
失敗。第1段、第2段分離が出来なかった。
◆LS-C 3号機(1970年2月3日 打上げ, 到達高度:65km, 水平距離150km)
成功。LE-2の性能及びジンバル機構の動作を確認。
◆LS-C 4号機(1970年9月9日 打上げ, 到達高度:45km, 水平距離165km)
成功。ジンバル制御作動試験、ジャイロ、ガスジェット制御装置制御試験。
◆LS-C 5号機(1971年9月10日 打上げ, 到達高度:53km, 水平距離150km)
成功。ジンバル制御作動試験、ジャイロ、ガスジェット制御装置制御試験。
◆LS-C 6号機(1972年9月25日 打上げ, 到達高度:40km, 水平距離100km)
成功。ジンバル制御作動試験、ガスジェット制御装置制御試験。
◆LS-C 7号機(1974年2月9日 打上げ, 到達高度:40km, 水平距離23km)
失敗。LE-3ロケットエンジンを搭載した飛翔試験。
第2段目点火後、推進剤供給配管に圧力異常。多量の酸化剤漏えい。
エンジン点火時のタンク加圧の瞬間、供給配管系に急激に推進剤が流れ、一種の
ウォーターハンマー現象が起き、衝撃圧で配管の一部が破損したと考えられる。
エンジン点火時のタンク加圧の瞬間、供給配管系に急激に推進剤が流れ、一種の
ウォーターハンマー現象が起き、衝撃圧で配管の一部が破損したと考えられる。
LS-Cロケットとしては、失敗と成功が入り混じる中、試行錯誤がなされた。
液体ロケットエンジンの点火、燃焼、制御においては、7号機を除いて、おおむね成果を得たが、それ以外のシステムでは、いくつもの不具合事故を起こした。
5.そして、LE-3 ロケットエンジンへ
3.5t級という、戦時中に三菱重工が経験した、有人ロケット戦闘機:秋水の2倍以上の推力を持つロケットエンジン、加えて、管構造のろう付製造エンジンだったことから、初めての事が多く、数々の苦労に見舞われた。LS-Cロケットについても、飛行中のトラブルに遭遇している。
しかしながら、一連のLE-2ロケットエンジン開発とLS-C打上げ試験で多くの知見を得られたと考えられる。そして、それはN-Iロケットの第2段目に該当する、LE-3ロケットエンジンへと受け継がれることになる。
LE-3は、完全な宇宙空間での使用するロケットエンジンであることに加え、日本初の国内開発された軌道投入用液体ロケットエンジンとなった。
このあたりについても、また機会があれば書きたい。
References
[1] 写真でみる日本の宇宙開発, 科学技術庁編(@NEWTON_13氏に情報提供頂きました)
[2] 管構造液体ロケットエンジンの研究開発, 三菱重工技報
[3] JAXAデジタルアーカイブス, http://jda.jaxa.jp/
[4] 日本ロケット物語, 大澤弘之
[5] 我が国の宇宙開発のあゆみ, 科学技術庁編
6.ソ連製 S2.720 ロケットエンジンとの比較
最後に余談だが、当時の日本が開発した液体ロケットエンジンを他国の物と技術比較を行いたい。
1969年にフライトに投入された、LE-2ロケットエンジンは、硝酸/UDMHで、再生冷却構造、推力3500kgf級、質量 48.5kg(バルブ、配管類を含む)等の特徴を持っていた。LS-Cロケットは、第1段目は固体ロケットモータ、第2段目がLE-2エンジンで、全質量は約2.5tである。
一方、これによく似た外国のエンジン機種が存在する。ソ連製のSA-2(S-75)地対空ミサイル(SAM)に搭載されたS2.720ロケットエンジンである。SA-2は、第1段目は固体ロケットモータ、第2段目がS2.720エンジン、全質量は約2.4tである。
S2.720は、OKB-2(イサエフ設計局)で設計されたSAM用ロケットエンジンで、硝酸/ケロシン(AK20K/TG-02)、推力34.300 kN(約3.4t)、質量48kg、再生冷却構造等の特徴を持っている。これは、LE-2と質量、推進剤、推力がほぼ同じ構成であり、第2段目として使用されている点も同じである。
しかしながら、S2.720は、1957年には既に実用化されていた。LE-2がLS-Cに搭載され飛行する12年前のことである。また、質量48kgの中には、重量があるターボポンプ(GGサイクル)やバルブ等も含まれている。比推力は、233 s と、LE-2よりも約15%高い。そもそも、燃焼圧15気圧に対して、64気圧で4倍以上も異なる。再生冷却方式は、管構造ではなく、波板構造であった。
これらの性能や仕様を比べると、ほぼ同じ構成の工業製品を開発した場合でありながらも、当時、ソ連と日本の技術差がどの程度あったかの指標になるので興味深い。
もっとも、1969年当時、既に大型液体ロケットによって有人宇宙飛行を成功させているソ連に対して、日本の液体ロケットエンジンは、LE-2以上の選択肢は無かったが。
SA-2 地対空ミサイル と S2.720 ロケットエンジン
References
[6] S2.720, http://www.astronautix.com/s/s2720.html
[7] Some identified rocket-engines from Isayev's Design Bureau (now KB Khimmash)
http://www.b14643.de/Spacerockets/Specials/KB-Isayev_engines/index.htm
[8] Almaz S-75 Dvina/Desna/Volkhov Air Defence System / HQ-2A/B / CSA-1 /
SA-2 Guideline Зенитный Ракетный Комплекс С-75 Двина/Десна/Волхов
http://www.ausairpower.net/APA-S-75-Volkhov.html
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