2018年5月30日水曜日

スカッドミサイル S5.2ロケットエンジンのサイクル方式について, Scud missile S5.2 rocket engine cycle

スカッドミサイル S5.2ロケットエンジンのサイクル方式について
Scud missile S5.2 rocket engine cycle





スカッドミサイル(R-17)に使用されている、S5.2ロケットエンジンのサイクルについて紹介する。


S5.2ロケットエンジンは排気熱を利用して空気ガスを加圧し、それを推進剤タンク加圧に使う面白い方式を取っていた。燃焼圧も70気圧と高いため、推力重量比は102を達成し、ほぼ同様の燃料を使っていた日本のLE-3(61)と比べても極めて高い。

S5.2は、推進システムの特徴として、ターボポンプを搭載し、高圧の推進剤供給を実現しており、燃焼圧10MPaと高圧である。同様に、ターボポンプユニットもガスジェネレータ排気管から熱交換を受けて、タンク加圧のアシストを行い、高圧ポンプでありながら、サイズ及び重量を低減されている。そのため、コンパクトなエンジンに仕上がっている。

全長1m弱、重量は128kg程度であり(燃焼室48kg, ターボポンプ単体25kg)、推力13.1tなので、推力重量比は102(海面)。この規模のエンジンでは、推重比が高い部類である。単純に推力のみだけ考えるとエンジン規模としては、日本のLE-5A(121.5kN, 452s, LH2/LOX, 重量248kg, 燃焼圧3.98MPa)と同程度であるが、推重比は49と半分である。




S5.2 ロケットエンジンの外観動画


エンジン始動は、始動用燃料TG-02と酸化剤AK-27Iをエンジンに送り込んで接触させ、点火する事から始まる。

燃料配管2は、酸化剤タンク内部を横断する燃料配管であるが、燃料タンク1から燃料をエンジンに供給するのみならず、始動用の燃料TG-02が既に満たされる。

R-11では、同じ機能の配管は機体外部にあり、なおかつ始動用燃料のために螺旋状にエンジンに配管を巻き付けていたが、それらが無くなり、機体外部の配管が撤去され、飛行中の空気抵抗が減った。また、別途エンジン周りに始動用燃料を配置しなくて良くなった。

燃料は遠心式ポンプ5によって、圧力調整器に導かれ、その後、燃焼室外側の再生冷却流路を通り、燃焼室のインジェクタから噴射される。燃料と酸化剤が運ばれれば、燃焼開始となる。

酸化剤ポンプ4により酸化剤は、燃焼室のインジェクタにダイレクトに供給される。燃料・酸化剤、両方のポンプは1軸式であり、タービンにより駆動する。別々ではなく、1軸式タービンポンプを用いるのは、ソ連のロケットエンジンの特徴の一つでもある。エンジンサイクルは、13のガスジェネレータで生成した高温ガスを駆動源としているガスジェネレータ(GG:Gas Generator)サイクルである。

GGを駆動する酸化剤は、出力制御装置7のラインを通過して供給される。燃料は、圧力調整器のメインラインを通って、再生冷却の様に、ガスジェネレータの外側ジャケットを再生冷却した後、GGへ導かれる。排気ガスは、タービンガス排出管11を通り、大気へ排出される。

エンジン始動時における初期は、固体燃料のガスジェネレータ12より供給される。これは火薬の燃焼によりガスを発生させる、小型の固体ロケットの様な物である。

タービンのサージングや空転等を避けるために、7と9によって、制御を行っている。出力制御装置7は、ガスジェネレータへの酸化剤供給率を変化させることが出来るので、結果として、タービンの回転数を変更出来、出力制御・調整が可能になる。

GGから供給されるガス量が減れば、燃焼室に供給される推進剤が理想的・理論的な圧力で燃えてくれない。燃焼室の燃焼圧が下がると、反対のことが起こる。9は、燃焼室への燃料供給圧を酸化剤の入口での供給圧と等しくなる様に調整を行う。同じ圧力に維持することで、所定の混合比を満たすように設計されている。

R-17はミサイルであり、飛行時に宇宙ロケットよりも大きな加速度がかかる。そのため、ポンプの遠心力を確保し、ミサイル本体にかかる飛行時の縦軸方向の加速度、軸圧縮力の作用下で正常に推進剤供給を保証するためには、タービン供給のみならず、さらにタンクに圧力をかけて過過給としている。これをアシストするのが14の圧縮空気タンクだ。推進剤タンクは、飛行中に上限5.5気圧の空気ガスで加圧されている。

しかし圧縮空気タンクを大きく過ぎると、ミサイルの重量が重くなってしまう。そこで、S5.2では圧縮空気タンクより供給された空気を、15の減圧器を通して、熱交換器10を通す。ここで、タービン排気の熱を貰う事により、ガスが膨張して圧力が高くなるので、機体搭載に必要な空気量を減少させ、圧縮空気タンクの重量増加を阻止している。

エンジンカットオフ時にも、ここからの空気ガスが送り込まれる。これは、弾道ミサイルは、エンジンの燃焼開始・終了による力学で、飛行を制御しているため、燃焼終了を速やかに行う事が命中精度に大きな影響を与えるからである。

燃焼停止が遅ければ、その分余計に推力が発生して、狙ったところより先に落ちる事になる。燃え残り燃焼時間を最小にさせるためにも、この空気タンクは役立っている。燃料を排出し、直ちに火を止め、推力をカットオフする役目を担っている。これにより、余計な推力発生時間を最小に出来、即ち命中精度を上げることを意味する。

エンジンの燃料供給ライン、空気供給ラインの起動とシャットダウンを確実に行うため、シャットオフバルブとリリーフバルブを搭載している。(これは簡易図である系統図には示されていない)製造を簡単にするために、4~13は構造的に一つに統合されている。制御システムはエンジン噴射段階でこれらを自立制御する様に設計されている。


スカッドミサイルのロケットエンジンについて執筆した書籍では、この辺についてもさらに詳しく解説しています。

http://orbitseals.blogspot.com/2018/12/aerospace-engine-review-vol7-okb-2-scud.html

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=451215



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